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「3年は会社の投資」という深い意味

アジアの経営者と話していると、日本の経営者と共通の深い悩みがある。
どの国であっても経営はそもそも、悩みの塊ともいえる。

次から次へと、解決しなければならない事が社長の決断を求めてやってくる。

大企業ならいざ知らず、中小企業、ベンチャー企業は
常に倒産の二文字が頭によぎりながら、経営の舵取りをしているわけである。とりわけ、ベトナム、中国、タイなど
新興国における経営者の悩みと共通点が多い。

それは、“ヒト”の部分で苦労が多いことだ。

一言で言えば、社員が定着しないことに尽きる。
基本的な経営資源として、『ヒト・モノ・カネ・情報』とよく言われるが、
やはり、企業は『人』なりである。

創業時の苦しい時期も、社員の一丸となった力が必要だし、
会社が成長する過程でも人のウェイトが大きい。どこの国の経営者でも皆同じ想いを持っている。

つまり、コストと労力をかけて採用した金の卵には
ずっと自社で働いてもらいたいと思っている。

特に、新卒の採用は、将来の幹部候補生の確保という意味でも欠かせない。
意外に感じるかもしれないが、アジアの経営者の考えも、
このような日本企業の経営視点に近いものがある。

入社して即戦力というのは極めて特殊な例であって、
本当のところは、数年いや10年スパンでじっくりと育てたい。

給与を支払いながら育成するのであるから、経営的観点から言えば、
明確な経営資源の一つ、『人』に対する投資なのである。

しかし、アジアの経営者は、人を大切に育てたくても
なかなかこれが実現できない。

社会全体に大きな問題があるのだ。

じっくり落ち着いて、学習して仕事をマスターするという習慣や常識がないのだ。

目先のことだけを優先して会社を移る。

例えば中国やベトナムで転職を繰り返す若者に
「会社に求めるものは?」と聞けば、決まって同じ答えだ。

高い報酬、専門スキルがすぐに身につくかどうか? 
そして福利厚生・・・といった具合だ。

つまり、目先重視の事項が並ぶ。

特に、このような新興国では外資系中心に
報酬を高くしての人材の奪い合いが起こっている。

自ずと、目先のことを考える若者は高い報酬の方に揺れ動く。

『社長に魅力、会社の将来性、じっくり下積みをすること』

このような長期的な視点で就職先を選ぶ若者は残念ながらあまりない。

洋の東西、先進国・新興国を問わず、
“本物”の経営者は、社員をじっくり教育してこそ、
経営が継続的に発展するということをよく理解している。

だからこそ、現実と理想に大きなギャップが生じ、大きな悩みを抱えている。

結果として、社員はすぐ辞めるものと割り切った考えを持つ経営者も多い。

そして、人材教育に取り組むことをリスクと感じ、極力避けるようになる。

一種のあきらめムードに近い考えを持つ経営者も多い。

では、日本はどうだろうか?

表面上の現象はよく似ていて、日本もまた、社員が定着しにくい時代だ。

<若者が3年で辞める>

この表現は一昔前であれば、大きなインパクトがあったが、
今や、それは当たり前。

日本の経営者もすぐ辞めてしまう若者に頭を悩ます。

しかし、アジアの事情とは背景がかなり違う。

アジアは、国自体が貧しかったり、生活のために
個人が少しでも多くの報酬を求めたりする過程で
仕事を変えていくことが多い。

そもそも、働くこと、会社の存在などが、まだまだ
社会的に理解されていないケースなど、
未熟さ故に発生する部分が多々見受けられる。

それに比べると、日本は、ビジネスに関しては新興国よりはるかに長い歴史がある。

少なくとも、経済が成長期に向かい始めた数十年前の時期、
日本には長期的に社員を育成できる仕組みや土壌があった。

制度そのものには賛否があるとしても、
昔は、終身雇用、年功序列という雇用システムが社会全体で機能していた。

20年以上前に転職する人は、よほど仕事ができないか、
相当ハイレベルな人であるかの両極端に限られていた。

特に若いうちは皆一様に、定年退職するまでの仕事を全うするための
教育訓練が行われたのである(大企業には今でもそういう部分は
少しは残っているが)。

経営者は、安心して、中長期的に社員教育に時間をかけることができたのである。

このような仕組みが存在したから、企業も長期間にわたって
成長し発展できたといえるだろう。

しかし、今の日本は大きく変わってしまった。

基礎体力を身に付けるべき時期にキャリアアップを目指すといって、
若者は性急な転職活動を繰り返す。

しかも、転職を繰り返す者が、会社に対して教育の充実を要求する。
日本の社会はどこかでバランスが大きく崩れてしまった。

会社は、給与をもらって勉強する場所ではない。

まして、転職するための準備期間であるはずもない。
そんな社員に教育コストを投入できる
のんきな会社がこんな厳しい時代に存在できるはずがない。

アジアと日本を比べて見ると、
社員をいかに定着させるかという課題は共通している。

しかし、日本にはアジアの国と比べると随分と余裕がある。

高報酬や自己実現などという言葉を並べ、自分のことだけを考え、
行動せざるを得ないような環境ではない。

自分自身のことだけを考え、転職を繰り返す事は、
いずれ自分自身の首を絞めることになる。

そんなことがまかり通るならば、会社は真剣に
スキルアップのための教育に対して投資をしなくなるからだ。

今にして思えば・・・最初に就職した会社の課長に言われたことは
今でも印象に強く残っている。

入社して4年目の秋口に退職したいと切り出した際に
課長からこんな言葉をぶつけられた。

『恩をアダで返す気か』

経営者となり、その言葉の意味が少しはわかってきたような気がする。

会社は、給与を払いながら、将来のために投資をしているのだ。

少なくとも3年は、会社から見たらほとんど投資だろう。

『仮に転職しても、他社で活躍できるためにコイツを育てているのだ』

そんなことを考える経営者などどこにもいない。

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