高野山は昨年、過去最高の年間約200万人の観光客が押し寄せた
日本一の宗教都市である。
昨年は、空海が開創して1200年の記念の年。
外国人の観光客も多く、特にフランス人がたくさん訪れたという。
昨年の観光客のうち宿泊客は約46万人。
外国人宿泊客は約4万6000人にのぼる。
奥の院には空海が眠るといわれ、厳粛な雰囲気を感じつつ、
その日は寺の中にある宿坊に泊まった。
高野山滞在はわずか1泊2日であったが、その緊張感のある空気を
感じながら神妙な気持ちで宿坊の部屋に入った。
寺に泊まるのは子供のころ、合宿で訪れて以来だと思う。
日頃の多忙と喧騒から離れ、非日常の空間で少しだけ癒しの時間を
楽しもうと思っていた矢先、『Wifiが使えます』と書かれた
壁の張り紙が目に飛び込んできた。
一瞬、頭が混乱し疑問符が浮かぶ。
「ここでWifi???」
「一体誰が使うのだろうか?外国人か?」
「それとも、超多忙な経営者か?」
それ以上はさすがに考えを巡らすのはやめた。
しかし、率直に驚いた。
少なくともこのような場所でスマホやパソコンは使わないことが
暗黙のルールだと思っていた。
そこに『Wifi使えます』という張り紙を見ると、先ほどの
厳粛な空気がスッと引き、少し興ざめした記憶が今でも残っている。
癒しを求めて、あるいは精神鍛錬のために寺に篭り、座禅を組む。
そんな場所と考えていたので「Wifi」の文字に違和感を
どうしても感じてしまう。
それから3か月ぐらい経った頃、今度はお坊さんが檀家にお経を
オンラインで提供しているというある記事を目にした。
その後、調べていくと仏教界の深刻な課題が見えてきた。
本来、宗教法人は非課税だからビジネスをしているわけではない。
檀家に対して、収入のほとんどは彼岸やお盆の檀家まわりによる
お布施や法事、そして葬儀からが大半を占める。
子供の頃から「坊主丸儲け」の言葉は私の世代の人ならば1度は
聞いたことがあるだろう。
流石に今は人口が減ってきているので、丸儲けはないだろうとは
思ってはいたが、人口減に加えて、若い層のお寺離れも深刻なようだ。
そのため何か策を講じなければならないと危機感を強める住職たちも
いる。檀家を繋ぎとめるための、さまざま施策を検討し始める。
このあたりは一般の企業と大差はない。
しかし、残念ながら住職たちは企業でいう経営の経験が圧倒的に
足りない。何から始めたらよいかわからない。
そもそも、従来は企業経営と寺院経営は別物と扱われてきたという。
最近になりメスが入るようになった、病院経営に近いものが
あるかもしれない。
このような寺院の業界も少しずつ変わり始めている。
住職を目指す方たちが集う高野山大学において今年から
寺院経営に関する講座がスタートしたという。
その講座は私の知人が教鞭をとっているのだ。
正直、そのような講座がスタートしていることも驚いた。
寺院をとりまく環境の変化もやはり急激なスピードで押し寄せている。
例えば、今ではお坊さんを手配して派遣するサービスも増えてきている。
他の寺の檀家であっても受け付けてくれる。
有名なところでは、アマゾンが「お坊さん便」というサービスを
始めている。最近は、人手不足の折、数多くの業界で何でもかんでも
人材派遣の様相があるが、さすがにお坊さんが全員人材派遣で
食べていく時代は来ないとは思うが・・・。
それにしてもなんとも寂しい話である。
どんな業界にも先進的な人はいるようで、お坊さんが
オンラインで檀家のためにお経を読んだり、お坊さんがオンラインで
檀家の相談を受け付けたりする。
こんなサービスがすでに広がり始めている。
今にして思えば、世界の高野山に「Wifi」は普通の事
だったのだろうと思える。最近、私の親しいベトナム人の女性社長が、
京都と兵庫のお寺巡りをした時の様子を、写真を見せながら
話してくれた。
金閣寺と比叡山延暦寺と兵庫県加東市にある念佛宗総本山の
無量壽寺である。
私が金閣寺しか行ったことがないと言うと、
「是非、行った方が良い。こんな素晴らしいところは
ベトナム人はとても興味があるし、感動的」
と逆に勧められてしまった。
「紅葉の季節にゴルフもセットでツアーを組んでね」とも
注文をいただいた。京都と言えば、京仏壇が有名で、
そのトップ企業である小堀社(株式会社小堀)はすでに
中国やベトナムで仏壇仏具を販売したり、富裕層の日本邸宅に
仏間を作ったりしている。
アジアの富裕層は、ある程度達成感ができると心の癒しを求め、
新境地の悟りを求めて仏教への信仰心がさらに強くなると聞く。
一方、今の日本人は仏教離れに歯止めが掛からない。
アジアや世界は、仏教にますます強い関心を持ち、そして
日本のお寺に訪れる。
今や通信により世界はどこでもつながる時代だ。
英語でお経を読む坊さんもいるようだが、
オンラインの仕組みで通訳も介して、ベトナム人などに
日本語でお経を読むというサービスがすぐにでも
生まれそうな予感がする。
それにしても、お坊さんの世界までもが人口減と生活者の
生活様式や嗜好の変化で、厳しい経営状態にあるということを
改めて知った。
お寺の経営にもICTを駆使した改革が必要な時期が
迫っているのだろう。
超アナログ的な世界の代名詞ともいえる寺院経営も変化が
求められている。
弊社としてもこの分野においても、お手伝いできるところは
数多くあると思っている。
さっそく、ベトナム人の女性社長に提案された2つのことを
実行しようと思う。
ひとつは、兵庫のお寺に行くことと、あまりにも有名だが
まだ行ったことがない比叡山に行くこと。
そして、もうひとつがベトナム人のために京都や兵庫の
お寺巡りツアーを紅葉の季節に企画することである。
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