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人間らしく住まうスマートハウスの未来とは?

「スマートハウス」と聞くと、皆さんピンと来るだろうか?
ここまで、巷に“スマート”というキーワードが氾濫してくるとさすがに
頭の中がチンプンカンプンになると思う。
ハウスなので住宅のことだとイメージできる方もいるだろう。「スマートハウス」とは、デジタル大辞泉の解説を引用しよう。

<情報技術を活用して家庭内のエネルギー機器や
家電などをネットワーク化し、エネルギーの消費を最適に制御した住宅>

また、「図解と事例でわかるスマートハウス」(翔泳社)には、

<エネルギーを節約する(省エネ)・つくる(創エネ)・ためる(蓄エネ)機能を持った住宅>

と説明がある。

簡単に要約すると、第一義には住まいに関するエネルギーを節約する、
つまり、地球環境にやさしい住宅ということになる。
少し専門的に説明するとHEMS(Home Energy Manegement System)という
住宅の中の電気の管制塔の役割をする装置がエネルギー関連の機器につながって
電気の流れや消費をコントロールする機能を指す。
日本の有力ハウスメーカーはこぞって各社各様のスマートハウスをすでに販売している。
では、今、実際にスマートハウスを意識して住んでいる日本人がどれぐらいいるだろうか?
戸建てにしろマンションにしろ、それなりの住宅に住むことは一般的な日本人にとっては、
人生の大きな目標のひとつである。
そして、実際に30年以上は住み続けるだろうマイホームのエネルギーの効率化は
コスト削減という意味では皆が気になるところではある。
しかし、エコカーと同様に、平均的な日本人が積極的に地球環境を守ることを意識して、
自分の住む住宅を選択しているかといえば首を傾げたくなる。
日本全体がまだまだ地球資源を無駄に浪費する先進国のひとつであるという事実から
考えても、エコ推進派は少数と思われる。
今は、ハウスメーカーなどの商売が先行し、目新しさや差別化要素として、
快適な家づくりのために機能の一部として埋め込まれている。
どちらかというと家を購入する人は特段エコを意識したわけではないが、
スマートハウスに結果的に住んでいるという状況ではないか。

ここまでのスマートハウスの定義に従えば、ICTはあまり関係がない世界ともいえる。
ハウスメーカーやエネルギー業界などからの次の一手として始まったスマートハウスの
出発点と、今世間でICT関連で大流行の“スマート”とは随分意味が違ってくる。
しかし現代に生きる私たちは、スマートハウスと聞くと、エコの概念よりも
「ICTと連動した住宅なのだろう」と勝手に思ってしまう。
スマートフォンに始まり、スマートシティ、スマートメーター、スマートヘルスケア、
スマートアグリ、スマートシニアケア、スマートカー、スマートオフィス、
スマート教育などなど。これでは、思い込んでも無理はない。
前回のブログでは、スマートマシンにも触れた。

そんなスマートというキーワードで勘違いされやすいスマートハウスを
私としては、昨今の潮流を鑑み、ICTの観点から考えてみたい。
そのメリットとデメリット、そして人間が本当の意味で快適に暮らすことができる
住まい創りとは何かを追求してみたい。
さらに、それぞれの住まいが繋がった新たなコミュニティの創造も含めて可能性を探りたい。

私自身はICTを活用したスマートハウスには住んではいないが、
強いてスマート的というならば、家でもWifiが普通に使えることだろうか。
余談だが、私は出張先のホテルでも、やはり習慣としてWifiが使えるかを
真っ先に確認する。海外では特にそうだが、こういう習慣は時として接続が
ままならないこともありストレスを生みやすい。
日本国内でも実情を書くと、以前よりは地方のホテルでも改善はみられるが、
先進国日本としてはWifiの普及率はまだまだ低い。
これが外国人などから大変評判が悪い。

現時点で実際に実用化されているICT関連のスマートハウスの要素を挙げてみる。

――スマホで外から自宅のペットの様子が見れる
――スマホで外から自宅の家電がコントロールできる
――訪問者に対してオートロックを居室から解除できる。そして遠隔地からでも制御できる
――どこからでも家の外と中を監視することもできる(防犯対策としてのセキュリティの範疇)

この他にも、掃除用ロボットもスマートハウスのひとつの要素になるだろう。
ここにいずれAIを搭載すれば、話相手にもなったり、生活の知恵などのアドバイスも
能動的にやり取りできる生活環境が実現するかもしれない。
ところで、外出先から風呂のお湯を沸かすことなどもすでに実用化されているが、
ここまでしなくてもと思うのは私だけだろうか・・・。

いずれにしても、こうやって書き出すと、結局今流行のあらゆるものを繋ぐ
「IoT」に絡んだ話になる。
ICTに関して常に先進的な米国における「IoT」の世界でとらえるスマートハウスは、
日本よりもビジネス化の検討が相当進んでいるようだ。
シニアが急増する日本は心理的抵抗感からアナログ的な国として見られているようで、
日本では米国的スマートハウスの普及のハードルは高そうだとの米国の調査もあるようだ。
「I0T」であらゆる外界と繋がる可能性のあるマイホームを想像していただきたい。
こんな世界を皆さん歓迎するだろうか?
今は、何やらよくわからないのと、繋がることによるプライバシーの侵害などの面が
先に気になり、シニアでなくても敬遠したくなる気持ちはよくわかる。

人間の基本的な生活基盤に欠かせない要素は「衣・食・住」である。
アジアなどと比べて、日本における衣食住の満足度は高い。
ただ、社会生活全体でストレスを常に感じ、特に職場や通勤の時などさまざまな活動で
『疲れる国』であるのは間違いない。
だからこそ、健康産業が活況を呈し、ストレス解消、発散のためのスポーツや
グリーンツーリズムなどが求められる。
日本人は、一方では疲れる社会を進化させ、一方ではそれを癒す活動に一生懸命に努力する。
世界から見ると、とても不思議な国民だろう。
このマッチポンプはどう考えても不自然なのである。
人間が生活する中で一番多くの時間を過ごす場所はどこかと考えると、それは職場か家になる。
今の日本の職場はストレスが溜まる場所である。
今後のICT社会の進展を考えると、ここしばらくはそれはエスカレートするだろう。
すでに述べたが、ICT社会の浸透は癒しと安らぎを与えてくれる家の中まで波及してくる。
少なくとも、身近な生活の周辺にはICTがとんどん浸透し始めている。
だからこそ、これからの家に求められるのは、そんなICT社会のストレスから開放された
空間であるべきなのではないか。

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実際に建築ビジネスにかかわるひとりとしても提唱したいことがある。
生活する人間が家にいてもほとんどICTを意識しない自然の住まい創りを実現していく
べきであろう。壁の中や床の下など見えない所では、ICTはふんだんに使われていてよい。
しかし、住んでいる人間はそれをまったく意識しない。スイッチなどは存在しない方がよい。
人間の音声だけでON・OFFが機能する。そんな住まいをデザインして世の中に広めていきたい。
そして、今の日本社会や海外のさまざまな課題を解決する住まい創りを目指したい。

ところで、ICTをまったく意識することのない家のポイントは部屋と壁の活用だと思っている。
今の日本の課題に照らして考えてみよう。
在宅勤務が進みそうだが、在宅勤務をする場所の確保はこれからの大きな課題となるだろう。
そもそも、職場がリラックスできる自宅と融合するわけである。
したがって、気分的な切り替えができなくてかえってストレスが増幅するのではないかと
危惧される。また、従来の住宅は、仕事をするのに最適な設計にはなっていない。
大抵の場合、すでにあるどこかの部屋の机にパソコンを置くだけだ。
今後は、人が生活する空間内に、特別に働く部屋を別に作るというデザインや機能設計が
必要になってくるだろう。
建築士もICTや職場環境のあり方を勉強しないといけない時代なのである。

シニアや障がい者の住まいも進化が期待できる。
シニアのひとり暮らしというと、見守りの部分でスマート化はすでに進行している。
先に説明したHEMSになるが電気メーターからシニアが無事に生活しているかの
判断をしたり、いざという時の通報などさまざまな工夫が凝らされている。
これはICTの有益な使い方のひとつだろう。
ここにAIカメラ搭載ロボットを活用する研究も盛んに行われている。
これも実用化は近いだろう。
ひとり暮らしでも安心安全に、そして豊かな生活を送るため、
ICTを存分に活用して必要な人とコミュニケーションが自由自在にできる時代は
そう遠くない。また、在宅医療、看護にしても、法律の改定が必要になるだろうが、
医者がオンラインでいつでも診断できるというサービスも実現して欲しい。

また、海外進出が増えてくると単身赴任も多くなる。
家族との団らんの場の居間をオンラインでつなぎ、共有することも可能だ。
しかし、パソコンなどでつなぐといかにも機械的。
少なくとも普通の住宅の自然の壁に相手方の部屋が繋がって見えるとどうだろうか?
いわばスクリーン埋め込み型の壁で空間を共有する感覚がとても理想的だ。
パソコンに映った画面ではしっくりこない。
これはさまざまな場面でも応用可能だ。
シニアに限らずひとり暮らしであっても、気の合う仲間同士が空間を共有することもできる。
田舎のシニアが都会の孫の部屋と空間を共有することもできるだろう。
生活に有益な情報を自然な形で伝えることもできる。
スマートハウスは先進国だけとは限らない。
アジアなどの低所得者層の住まいにもスマートハウス化は十分考えられる。
タイムリーに生活情報を提供するだけでも現地の行政などのメリットは多い。

私が将来理想とするスマートハウスはこんなイメージだ。
田舎で自然に囲まれた木造住宅でパソコンのキーボードなどを触ることもなければ、
スマホもいじらない。
必要に応じて仕事がしたければ、仕事部屋に入っておもむろに空間に話しかける。
そうすると壁に呼び出した相手が登場する。
家にはすでにAIが搭載されていて、さまざまな生活データから健康管理のケアも
してくれる。1週間の食事の履歴からバランスも考え、食事の献立も考えてくれる。
目覚まし時計で苦労して起きている人にとっては、寝ている間に温度調整など巧みに行い、
自然に目覚める生活環境を創りだす。
こんなことも夢物語ではなく、実現可能だと思っている。

人間がより快適によりリラックスできる空間創りこそが大切である。
つまり人間主体で考えていけば、進化し続けるICTが使える部分は無限にあるかもしれない。
無理にICTを意識せず、人間らしい生活を実現できる。
これこそ、真のICT連動のスマートハウスの理想である。
人生で一番時間を過ごす場所だけに、本当の意味でのスマートな住まい創りの可能性を考えると、
楽しくて仕方ない。

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