天下のシャープが台湾のホンハイ(鴻海)の傘下に入ることが決定し、
2016年8月にその手続きが完了した。
海外でも注目されているニュースのひとつだ。
私にとっても、やはり衝撃的だし、日本人としては感傷的になってしまう。
シャープの不振がメディアを賑わして、すでに数年が経つ。
JALも然りだが、経営環境の激変に企業経営の寿命による
宿命が重なっての苦境だろう。JALは、国が支援して再生した。
シャープもこのパターンかと、私もなんとなく日本人として
かすかな期待があった。なぜ、台湾の急成長の企業ではなく、
国の再生支援に少しでも期待していた自分がいるのだろうか?
根底にはふたつの理由がある。ひとつは、やはり世界でも
奇跡的ともいわれた戦後の大復興の象徴であり、いまでもアジアから
リスペクトされる日本企業の代表選手であるシャープである。
特にテレビを世に送り出した第一人者の家電メーカーとして、
ひとりの生活者としても愛着がある。そして、それが日本の
文化や誇りとも重なるところもある。
もうひとつは、巷のメディアでも頻繁に取り上げていた
技術の流出に対する懸念である。しかし、こちらの理由に関しては
私の思考回路に矛盾があった。感傷的な部分が大きすぎたのだろう。
私達は中小企業のアジア進出を支援する立場だ。
技術流出の心配をするよりも、信頼できる現地パートナーとの協業で
変革を起こし、ビジネスを創造する時代であることを常に公言している。
ビジネスの世界でいつまでも競争優位をキープしつづけられる技術は
存在しないと思っている。最先端技術にも必ず寿命がある。
現に中国や韓国はすでに日本の優れた技術は数多応用、活用されている。
一部には非合法で流出した部分もなくはないだろうが、
ビジネスのルールにのっとって、売却、移転などが行われ続けている。
日本の秀逸なエンジニアが中国や韓国企業に請われてきたのは最たる例だ。
世間で言われているように、仮にシャープの液晶技術が
極秘ノウハウだったとして、同社がこれを頑なに守ることが
再生の道ではないはずだ。
時代は激変している。テクノロジーの進化も日々加速する。
シャープの問題は、時代の変化に適応できていなかったことだ。
これからの喫緊の課題は新たなるイノベーションが連続的に
実現できるかにあるだろう。これが達成できるのであれば、
アジアの新興大手企業の傘下であろうが、日本国籍の企業であろうが、
本質的には関係がない。まして、企業の機密を保持することは
とてもやっかいで困難な時代だ。同じ企業グループ内で、
日本側から台湾側に機密が流れることになる。
ただし、その心配ばかりすること自体がナンセンスだろう。
これからは、ホンハイ&シャープ連合で機密保持をハイレベルで
実現することも、新たなる企業連合の存続にかかわる重要事になる。
そんなこと考えながら、アジアビジネスを提唱し始めた頃のことを
思い出した。私は10年以上前から、本格的なグローバル化の時代は
特にアジア企業とのビジネス連携は必然であると提言してきた。
そして、自分の上司がアジア人になる確率が日増しに高まっていると
述べてきた。だから、アジアの人たちと付き合うためのグローバル対応が
必要不可欠だとも話をしてきた。英語ができる・できないは関係ない。
自分より仕事ができるアジア人が自分の上司になるのは
まったく不思議ではない時代なのである。
シャープの事例で考えてみたら、企業経営の構図上、
全員がホンハイの経営陣の部下になったようなものだ。
しかし、働くことの本質でいえば、上司が変わろうが、
会社が変わろうが、国が変わろうがそもそも関係のない世界である。
私はアジアでビジネスを始めた20年近く前から、いつか日本の新卒の若者が、
アジアの現地企業にダイレクトに就職することが当たり前になると考えてきた。
まだ、劇的に変化はないが、すでに予兆はある。
ベトナムなどでもインターン生が増えつつある。
私達もベトナム現地でのインターン受け入れを10年以上前から
率先して実践してきた。しかし、私達自身も日系企業である。
このインターンもいずれは、現地日系企業ではなく現地の企業、
つまり、ベトナムならベトナム国籍のベトナム人が社長の会社で行う
というケースが増えてくるだろう。そういう動きと併せて、
就職活動はアジアでしかも現地企業のみが企業訪問の対象という
就活中の学生に巡りあうことに期待している。
日本人が『内向き志向』と言われて久しい。
「引きこもり」とも言われている。シャープのような事例は
これからも必然的に増えるだろう。しかし、このようなパターンは
受け身的なグローバル化だ。時代は劇的に変わりつつある。
これからは個人レベルでの積極的なグローバル化が不可欠だ。
若い人は特に「自分の上司がアジア人だったら」を当たり前に思える時こそが、
本当の意味でのグローバル化の土台ができたと考えてもらいたい。
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(近藤 昇 著 2016年10月15日発刊
『もし、自分の会社の社長がAIだったら?』
PARTⅢ 日本人への提言-【提言25】もし、アジア人が自分の上司だったら より転載)