居酒屋で働くアジアの留学生が増えてきている。
なにも今に始まったことではない。
数年前から顕著になっており、日本国内のコンビニや居酒屋などの
アルバイト不足が騒がれてすでに久しい。若者人口の減少と若者の
サービス業におけるアルバイト離れが重なって、年々、サービス業の
現場には人手不足が目立つようになってきた。そんな中、中国人の
アルバイトが目立つようになり、最近では、ベトナム人も増えてきた。
ベトナム人留学生の数はすでに中国に次いで2番目になっている。
店先での印象と実態は合致していることになる。つまり、このような
業態における多くのアルバイトは外国人留学生の占める割合が急拡大しているのだ。
私がよく通う不動前(東京都品川区)の居酒屋ではミャンマー人が働いている。
学生街にあるような学生客中心の居酒屋であれば、サービスの良し悪しを
気にしているのではなく、腹一杯食べて、安くて、騒げるところで問題ない。
だから、日本人が好んで求める少しハイレベルのサービスは必要ない。
ところが、最近は人手不足の深刻化により接待で使えそうな飲食店でも
アジアの留学生が増えてきた。以前から、居酒屋で海外の人が
働くことはあったが、大抵は日本語のレベルが高く、サービスも
身についていた。ところが、今は違う。それらのスキルもままならないまま、
アルバイトとして店に立っている子たちが目につくようになった。
このことは店舗のマネジメントの問題でもある。
しかし、実態はじっくり育てている時間もなく、猫も杓子も・・・
という状況なのだろう。
こんなサービス業界の変化の中、日本の良いサービスに慣れすぎた
日本人客がどう考えるか、そしてどう反応するかが、
日本のサービス業の行く末に大きく影響すると常々思う。
特に、ベトナム現地でレストランビジネスなどに関わっていると、
サービス業における人件費の重みをヒシヒシと実感する。
東南アジアなどは、まだ人件費が日本の5分の1から
10分の1程度のところが多い。日本で客単価5000円の
レストランレベルであれば、ベトナムのホーチミンだと
客単価1500円前後くらいだ。そのベトナムも人件費は
上がり続けているのでその差は小さくなりつつあるだろう。
しかし、それでも利益確保は日本のそれに比べるとずいぶん楽だ。
比較してみれば、日本国内における飲食ビジネスはどれほど大変かと実感する。
今のベトナムのような新興国の課題は、日本のようなサービスレベルに
まったく達していないことだ。すでに味は日本のちょっとした居酒屋と
遜色ないレベルまできている。
いきなり、今の日本のレベルに到達することはないが、次の差別化の
ポイントのひとつがサービス力になる。そういう意味でもサービス力の
伸びしろはまだまだいくらでも残されている。日本の経営者がこういう
伸び盛りの新興国で飲食業にチャレンジしたくなる理由のひとつでも
あるのだろう。ビジネスがシンプルで楽しくできる場所であることは間違いない。
こんな比較をしながら、日本でお酒を飲むことも多い私は、
日本の居酒屋でアジアの留学生の活躍ぶりにはとても関心がある。
一方、先進国の日本の世の中はそろそろサービス業にもロボットが
本格的に登場するのではないか。すでに長崎のハウステンボスにおける
ホテルでは受付がロボットだったりする。介護は単なるサービスとは
いえないが、この分野にもロボットが登場している。
すでに回転寿司などは自動化が進んでいる。
さて、考えてみたい。回転寿司を頻繁に利用するお客さんが
人によるサービスを期待しているだろうか?
私も時々行くが、その度に感心する。とにかく自動化の進化が
目覚しい。注文もほぼオンラインだ。人件費の削減には大いに
効果を発揮しているだろう。最近はデータマイニングを使って
お客様にタイムリーに寿司を流す・・・そんな店まで現れたという。
そうすると、あとは接客と会計くらいが人間の仕事に思えるが、
実はこれもロボット化の範疇ともいえる。
では、お客様からのクレームや突発的な対応はどうするか?
私はオンラインでセンターのオペレーターがテレビ画面上に
登場すれば足りると考えている。そもそも、回転寿司に行く人は
大抵のお客様が人によるハイサービスは求めていないだろうから。
ICTビジネスの世界に身を置いていると、ついつい
こんなことを考えることも多い。
居酒屋の話に戻そう。変化していくサービスの在り方に
満足するかどうかは結局はお客様次第ということである。
少なくとも学生中心でちょっとほろ酔いセットの
ビジネスパーソン中心の店ではすでに店員は不要だろう。
ICTとロボットで十分である。
では、人にサービスして欲しいと思う欲求との境目はどこにあるのか?
行き着くところは料金との兼ね合いだ。お客さんの期待に対して、
サービスの提供、結果としての満足度とそれに対する対価に行きつき、
サービスがハイレベルな店は自然と単価が高くなる。
人によるおもてなしを期待しているわけだから、その分金額が
高くなるのは当然だ。
このような棲み分けの時代がもうそこまで来ていると思う。
それともうひとつ、ロボットとの関わりを意識し始めた日本人が
考えておくべきことがある。そもそも、日本という国は海外の
労働力に支えられてきた現実を、である。サービス業などの
アルバイトは最近のことだが、製造業や農業、漁業などの
一次産業における技能研修生中心の労働力に支えられて
日本の経済は成り立っているし、私たちの便利な生活も成立している。
こんなことも知らない若者が増えてきた日本はこの先にどうなるのか、
と不安になる。もっとも、大人でもこういう現場の現実を知らないで
働いている人が最近は増えている。特に、都心の大企業で働く人は
無関心のようにも映る。自分たちがやりたくない仕事を結果的に
海外の労働者に頼る。不法就労も後を絶たない。その背景には、
日本の労働者不足がある。そろそろ日本人も現実を直視する時期を
迎えていると思う。
もちろん、法律に準拠し、お互いの利害が一致していればよい。
海外にはたくさん日本で稼ぎたい人もいる。
相手のメリットを考えて仕事の場の提供があればよい。
しかし、搾取型はいけない。何事もバランスが大切だ。
日本はそろそろこのような現場の労働を誰に頼るのかを真剣に
考えなければならない。
自分たちなのか?
海外の人なのか?
ロボットなのか?
ロボットだらけの居酒屋が増える前にこの過渡期を近隣のアジアの
国々に支えてもらっている現状を日本人はもっと知るべきだろう。
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(近藤 昇 著 2016年10月15日発刊
『もし、自分の会社の社長がAIだったら?』
PartⅠ 社会への提言-【提言1】居酒屋とロボット、そしてアジアの留学生について考える より転載)