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【第8章】今も変わらないICTの前に人ありき


私が起業をする前の若い頃の話だ。
ある中小企業のシステム導入を担当したときにひどい目に遭った。
担当者と共にコンセンサスをとりながら進めていたシステムを
同社の社長が完成後に「ノー」を突きつけてきた。
一体なにが起こっているのか、わからぬまま営業部長と共に
話し合いの場に出向くと、同社の社長が「聞いていない」
「直接相談がなかったから」などと主張してくる。


こちらとしては、担当とコンセンサスをとりながら進めていたことは
社長も知っていたはずであり、結局何か気に入らないことがあったのかと
勘ぐった。結局、埒があかないまま、私自身も腹に据えかねて、
ホワイトボードにこう書き殴った。


「システムの前に人ありき」


本当にそのときはそう思った。
このような会社にシステムを導入しても無駄。
使うのは結局、人間であり、その人間がこのような態度を繰り返すのであれば、
うまくいくわけがない。この咄嗟にホワイトボードに書き殴った一言が、
私の中小企業支援の原点となった。


当たり前の話ではあるが、人間が道具を使うのであり、
道具が人間を使うことはない。どんなに機能性が高く、
秀逸なツールがあったとしても、使う人間のリテラシーひとつで、
武器にもなり、ゴミにもなる。ICTは魔法の杖ではなくツールである。


かつて、グループウェアを導入したが、社員の誰も使用せず、
廃墟になっていく話をよく聞いた。グループウェアというツールばかりに
注目するからおかしくなる。そもそも、この組織に足りないのは、
社員間で情報を共有し、プラスアルファの成果を生み出す土壌である。
そのことに気づけば、どこから手を打てばよいかもわかるはずだ。
多くの企業が、ICT活用に悩んでいる。だからこそ、
私たちが声を大にして伝えたいのが「アナログ力」なのである。
アナログ力とはなにか?
それは、フェイストゥフェイスのコミュニケーション力や
地道に物事をチェックする力であったりする。


「ICTを使えば、そのようなアナログ力がなくてもなんとかなる」


こう考える人たちが多い。実際、そういう経営者の方々も少なくない。
しかし、これは大きな過ちである。確固たるアナログ力があってこそ、
ICTを使いこなし、その相乗効果に期待ができるのである。
逆に言えば、アナログ力のない人間や組織がICTをむやみに
使っていけば、空まわりするだけである。


「隣の席の人間にメールで会話をする」


このような職場は意外にも多い。
これこそ、アナログ力なきところにICTを導入した結果であろう。
ICTはマイナスを埋め合わすツールではない。
さらなる高みを目指すためのツールであることを忘れないでもらいたい。

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(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する
第8章 中小のアナログ力が際立つ時代の到来-今も変わらないICTの前に人ありき より転載)