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【第7章】介護にICTは貢献できるか


次に高齢化問題においても重要な介護について考えたい。


日本では、看護、介護の分野における慢性的な人材不足の解消のため、
インドネシア、フィリピン、そしてベトナムから看護士および
介護福祉士の受け入れを2008年からスタートしている
(インドネシア人が2008年からスタート)。
介護福祉士は各国とも平均100名前後の受け入れ数で推移
(ベトナムは2014年からスタート)しているようだ。
※2015年9月30日発刊時点


しかし、この受け入れ制度についても賛否両論が渦巻いている。
「もっと外国人看護士や外国人介護福祉士の受入数を増やすべき」や
「海外の人間に介護業務がつとまるのか?」など世間はかまびすしい。
しかし、自国の介護人材を他国でまかなうという現実を目の前にして、
日本人は将来の現実をもっと直視すべきではないのだろうか。


私たちが懇意にさせていただいている医療系経営コンサルティング企業の会長が
ベトナムで講演したときである。会場にはベトナム人の方々で満員御礼の状況。
登壇した会長が、日本におけるロボット技術による介護の話をしたときだった。
講演後、ある女性参加者がこんな質問をした。


「なぜ、ロボットが介護をするのか。なぜ人間が介護をしないのか?」


まだ、家族主義が色濃く残るベトナムの人々にとって、介護をロボット技術が
行うことなど信じられない出来事なのだろう。しかし、日本の介護の現場では、
すでに「日本人」が足りない。だからこそ、冒頭で紹介した外国人の受け入れに
望みを託している。しかし、この姿が国家として、あるべき姿かどうかというと、
その答えはなかなか明確にならない。この質問をした女性に、この会長はこう答えた。


「日本の介護の問題は日本自身が解決しなければならない。
 そうであれば、ロボットが介護をするのもやむを得ないのではないか」


本当に難しい問題だと痛感する。正しい答えなどなかなか見つからない。
ICTの進化は、人間の介護領域までもサポートすることを可能にしている。
しかし、現実問題としてそれを受け入れるべきなのか。
生産現場でロボットが活躍するのとはわけが違う。ホテルの受付にロボットがいれば、
もの珍しさで人は集まるかもしれない。家の掃除をロボットに任せるのも、
「便利」という言葉だけで片づけられるかもしれない。しかし、人間の介護を
ロボットで行うことに、人間自身はどう感じるのだろうか?
産業革命とはまったく異なる、新たな領域に人類は足を踏み入れようと
しているのかもしれない。


だからといって、「ならば人間で対応しよう」とすれば、日本という国は
矛盾を抱えながら突き進むことになる。自国の問題を他国の人間のサポートで
どこまでまかなうのか。さらに、その外国人たちは日本で難関の国家試験を
受験し、合格するというハードルを課されている。
一体、日本という国はどこへ向かっているのか?


ICTで人間の介護に対応することは難しいことではないだろう。
しかし、そんな単純な話でないことは、その分野で働く人たちは皆、
肌身で実感している。それでも、ICTが介護分野に浸透するとき、
私たちは人間とICTの関係性を見つめなおすことが求められるだろう。
私も含め、すべての日本国民が「来たるべき必然の未来」と
受け止めることが何よりも求められている。

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(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する
  第7章 水牛とスマートフォンを知る-シニアの活動を支えるICT より転載)