SNSはすでに説明したとおり、
ソーシャルネットワーキングサービスの略である。
インターネットの世界の中で、社会的なつながりを
作り出すことのできるサービスとして、急速に普及した。
代表例はFacebookやTwitterだろう。
ユーザー数の多さに目をつけ、企業の広報活動に
SNSを活用することも当たり前のように行われている。
従来、企業が消費者とのコミュニケーションをはかる際に
真っ先に思い浮かべるのは、テレビ、新聞、雑誌、
ホームページなどであった。しかし、これらはすべて
企業側の一方的な情報発信に過ぎない。
SNSのようなインターネット上のミクロなコミュニティに対し、
企業がアプローチを行うのは、消費者とのダイレクトな
コミュニケーションをはかりたいからであろう。
いまや、SNSは企業広報やマーケティングの重要な
戦略のひとつになっている。例えば、人を効率よく
集めようと思えば、戦略的にSNSに広告を打つのが
最上の手段ともいえる。
SNSは言い換えれば、個人情報の集積場ともいえる。
その性質から膨大な個人情報が集まり、運営者側は
その情報を管理することによって成立している。
しかし、そのサイトを利用するために料金はかからない。
ならば、FacebookやTwitterはどうやって
運営を成り立たせているのか?SNSの呼称どおり、
BtoBよりもBtoCを軸にしたサービスである。
無料で利用できるサービスであるがゆえに、
ほとんどの人は気づかないが、実態は営利目的の
サービスであり、個人を囲い込む広告ビジネスである。
個人の属性情報をタダで仕入れて、それに最適化した
広告配信システムを作りこんでいく。
これがSNSビジネスのしくみだ。
このしくみを理解しているならば、SNSを企業経営の
広報やマーケティングに積極的に活用することは効果的だろう。
しかし、その事実を知らず、更新だけをせっせと
繰り返していることは、サイト運営企業に大切な
個人情報を差し出しているだけに過ぎないといっても
過言ではない。
一方で、企業にとってSNSは別の複雑な問題を
発生させている。誰もが手軽に利用できるSNSだからこそ、
今まで企業経営にはなかった新種のリスクが
生まれているのである。ある飲食チェーン企業は
こんな事態に見舞われた。
ーアルバイトが厨房でゴキブリを調理した、とSNSに投稿し、
その噂が瞬く間に広がった。その反響の広がりに事態を
重くみた企業側は事実無根と発表し、対応に追われるー
投稿した当人はここまで影響が拡散するとは
思ってもいなかったかもしれない。
職を失い、反響の大きさに自分のとった行動の重大さを
思い知らされることになったであろう。
実は、このような問題は枚挙に暇がないほど発生しているのだ。
企業経営にとってSNSはメリットばかりではない。
手軽に、簡単に、誰もが利用できるからこそ、このようなモラルを
逸脱した投稿が行われ、企業のブランドと信用を失墜させる。
投稿する側は自身が企業の従業員やアルバイトという意識が
薄いのであろう。例えるならば、SNSの世界に足を踏み込むと、
そこは一個人の世界にしか見えないのだろう。
ただし、ここで投稿することはリアルな世界で起こった出来事が
中心である。すると、自身が日々の大半をすごす職場が
投稿のテーマになることも少なくないだろう。
「人の噂は千里を走る」と言うが、SNSはその手間が
ほぼゼロで世界中に噂話を発信することができる。
そして、ユーザーはそれが噂話ではなく、事実であると信じ込み、
その発信にリアクションをする。
つまり、トラブルを引き起こさず、SNSを企業が
使いこなそうとすれば、社内における情報リテラシー教育を
徹底させるしかない。SNSは企業にとって、
今までのマスメディアでは実現しなかった消費者との
ダイレクトコミュニケーションが実現できるツールでもある。
マーケティングにも効果的だ。
しかし、そのリスクも正しく理解しておくことが大切なのである。
個人向けのサービスを企業経営でどう生かすか。
よく考えてもらいたい。
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(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
『ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する』
第5章 エスカレートする情報過多と溺れる人間-SNSと企業経営の相性 より転載)