世間を見渡せば、とにもかくにも「情報社会」をすぐに実感できるほど、
情報があふれている。人々は常に情報に触れていないと不安になる。
これは、ビジネスの現場においても同様のことが言えるだろう。
ここ数年で、人間と情報を取り巻く環境は大きく変わってしまった。
ところで、一体、何が変わってしまったのか?
2011年、総務省が「我が国の情報通信市場の実態と情報流通量の
計量に関する調査研究結果(平成21年度―情報流通インデックスの計量―」
を公開した。少し古いが、2001年から2009年までの間に流通した
情報量と消費された情報量を調査したものだ。
この統計、実は興味深いデータが並んでいる。
まず、2001年から2009年までの期間で「流通情報量」は
約2倍まで伸びている。一方で、「消費情報量」はこの期間、
大きな伸びを見せておらず、ほぼ横ばいの状態だ。
これはなにを意味するのか?結論からいえば、情報が大量にあふれる時代
と言われるが、人間自身はその大量の情報を処理する能力は急激に向上しない。
それは子供でもわかる理論だろう。
しかし、人々が受け取れる情報の発信は飛躍的に増えているのである。
つまり、「供給過多」の状態に陥っているのだ。
また、メディア別に情報を見ると、ここにも極端な傾向を見てとれる。
今回の調査で登場するメディアは「電話、インターネット、放送、郵便など、
印刷・出版、パッケージソフト」と定義されている。
その中で圧倒的な伸び率を見せているのが、インターネットである。
逆説的な言い方をすれば、インターネット以外のメディアの情報量は
ほぼ横ばいで現状維持が良いところである。つまり、近年の情報量増大は
インターネットの普及がもたらしたものといっても過言ではない。
そして、情報があふれてくるとなにが必要になってくるのか?
それは「目利き」の役割である。ニュース記事を集約し、ユーザーの
見たい・聞きたいという要望に応える。すでにネットにはさまざまな
テーマにあわせた「まとめサイト」も乱立する。そんな水先案内
人も増えてくる。私たちに降り注ぐ情報量が膨大になるのは、
そんなサイトの存在も重なって影響を及ぼしている。
もちろん、この傾向はこれからも加速度的に進行すると思われる。
ビジネスの現場においてはより深刻な問題が顕在化するのではないだろうか。
「情報につながっていないといけない=インターネットにつながっていないといけない」
というロジックから、ビジネス全体がインターネット依存になってしまう。
そこで生まれる新たな問題、リスクが、企業経営の屋台骨を
揺るがすことになりかねない。
社内は情報のタイムリーな入手、分析で手一杯。さらに、それぞれの企業が
情報を発信する量も増え続けているわけで、SNSなど新たな情報発信の場も
拡大している。便利な生活の実現や効率的な業務の遂行を目指して、
情報を入手しようとしていたが、やがてその情報に振り回され
疲弊しているのが現代と言えまいか。
――――――――――――――――――――――
(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
『ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する』
第5章 エスカレートする情報過多と溺れる人間-情報があふれる時代 より転載)