当社は2007年3月に発刊した『優秀なIT担当者はクビにしなさい!』
(2007年3月・カナリア書房)で、さまざまな問題提起をしている。
そもそも、昔の日本の優秀なエンジニアはIT業界に向かわなかった。
一般的にレベルの高いエンジニアは新しい技術に触れることで、
報酬が高いステージを目指すことが多い。
そのため、その当時のレベルの高いエンジニアの卵は自動車業界や家電業界、
建設業界など日本の高度成長期を支えてきた業界を目指すことが多かった。
巨大プロジェクトの数々を手掛け、エンジニアとして切磋琢磨し、
レベルを向上させた。
自動車業界であれば、新車を購入して、車がまったく動かない
なんてトラブルはまずない。そんなことがあれば、リコールなどの
大問題に発展する。
建築業界もしかりだ。マイホームを手に入れたのに欠陥だらけで住めない
なんてことはほぼない。あれば、社会的な問題になる。
しかし、ITに関しては違った。高いコストをかけてITを導入しても、
動かないコンピュータ化することが多々あった。
それだけ産業として歴史も浅いし、成熟していないため、
誰でもITエンジニアになれた。ITに少し詳しいだけで社内で重宝され、
SEの真似ごとをする人々が多かった。
だが、今は違う。ICTによるさまざまな技術が進歩し、
生活にまで浸透している。ICTが身近なものになり、最先端技術の
仕事らしくなってきた。それにあわせ、ITエンジニアも優秀になってきている。
ところが、ITエンジニアとして経験を積んだ人、
これからIT業界に向かおうとするエンジニア志向の学生がどこに向かうか。
活況を呈しているオンラインゲーム業界だ。
ゲームに慣れ親しみ育ってきた人にとって、ゲーム開発が楽しそうに映る。
しかも、好景気に支えられて、今は高報酬で迎え入れられる。
本当にそれでよいのだろうか。ゲームビジネスがどこまで社会貢献につながるのか、
考えてほしいものだ。
その企業独自の独創的なビジネスモデル以外は、ほとんど世の中に
すでにあるものを手に入れることができる時代だ。
ICTを活用すればしくみができあがる。
従って、何もIT担当者が、ITエンジニアである必要はない。
ITエンジニアとしての知識よりも、
ICTビジネスの本質を理解していることだ。
例えば、Amazonや楽天のECサイトや、無料のクラウドサービスは、
バックヤードで利用者情報を収集し、広告ビジネスに利用している
といった実態を知って利用するのと、知らずに利用するのとでは違う。
あるいは、世の中でICTがどのように活用されているのか、
ICTでどうやって儲かるモデルを構築しているのか、ICTで
どうやってコスト削減をしているのか、ICT活用とは表裏一体の
情報セキュリティリスク。
こういうことを正しく、理解していることの方が肝要である。
その上で、自社のための経営戦略や情報活用戦略にのっとって、
ICT活用の効果があげられるよう推進役となる。
そういう人がIT担当者になるべきである。
IT技術偏重にならないことが大切なポイントだ。
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(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
『ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する』
第4章 今どきのICT活用の実際-IT担当者を誰にして、何を期待するか より転載)