ICTの活用を進める上で、必要になるのがITリテラシー教育である。
このITリテラシーとは、PC操作やExcel、Wordの操作に
習熟するということだけではない。
私はセミナーや研修で、ICTのリスクを包丁にたとえて説明する。
包丁は便利な道具だ。野菜を切ったり、肉を切ったりする料理の必需品だ。
しかし、一歩使い方を間違えば、人を死傷させる凶器にもなりうるのだ。
最近は、小学生が携帯やスマートフォンでゲームに興じている姿を
見かけることも珍しくない。インターネットを利用することもあるだろう。
しかし、ICTを見様見真似で、使いこなしている姿を見るにつけ、
この子どもたちが将来問題を起こしてしまわないかと危惧する。
人間形成がきちんとできず、しかもITリテラシー教育も受けずに
機器や端末、ネットに触れているのだ。
悪ふざけや目立ちたい一心でコンビニ内で威力業務妨害まがいの
悪戯をして、YouTubeにアップする学生や子どもが後を絶たない。
SNSで誹謗中傷によるトラブルを招くこともある。
SNSをよくわからずに利用して、個人情報を拡散してしまうという
トラブルも起こしかねない。
このような状況を見るにつけ、私自身は幼少の頃からの
ITリテラシー教育が必要だと考えている。
小学校でいきなり、タブレットを使った授業をするよりも、
ICTの便利さと同時に使い方を間違えると人を傷つける凶器にも
なりうるということを教えることの方が先決だ。
こういう問題意識に駆られ、
『マンガでわかる!親子のためのインターネット& ケータイの使い方』
(2005 年10月・カナリア書房)を今から10年前に発刊した。
そこで、ICTに関するモラル教育の必要性を説明している。
子供のICTは、自転車に乗るのと同じように考えるべきだ。
最初は、補助輪をつけて自転車に乗る練習をする。
やがて、自転車に慣れると補助輪を外し、自走するのと同様に、
ICT利用についてもステップ・バイ・ステップで進めるのだ。
最初は、使用時間や使用機能を制限していくことが必要だ。
『インターネットの心理学』(2001年9月・NTT出版)
という書籍がある。本書では、インターネットの世界が
人間行動に及ぼす心理的な影響について説明されている。
本書によれば、心理学的にはインターネット世界では、
人は奇妙な行動をとったり、普通とは異なる人間関係を
築くことがある。また、正常な人がささいなことで
冷静さを失うこと、熱い論争に巻き込まれ相手を不必要に
厳しく非難したり、他者とのやりとりにおいて、
まったく抑制のきかない状態に陥ったり、激昂しやすいとある。
本書以外でも、インターネットやゲームにより攻撃性が高くなるなど、
心理学的見地からの研究が数多くされている。
いずれにしてもトラブルが起こってからでは遅い。
女子高生のSNS利用時間は1日7時間にのぼるとの
調査データがある。デジタルネイティブ世代といえども、
さすがにこれだけの時間、SNSをし続けると疲れるだろう。
ついに、SNSのつながりから離れようとする動きもあるようだ。
東南アジアの国では、日本の躾や道徳を学びたいとの声を多く聞く。
そんな声を聞くにつれ、本当に日本で子供の躾や道徳を
やり直すべきではないかと思ってしまう。
人間形成が大切な子供の頃に躾や道徳、それらにマッチした
アナログ力をベースにした本質的なITリテラシー教育を行うように
社会がもっと関心を持ってもらいたいものだ。
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(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
『ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する』
第4章 今どきのICT活用の実際-ITリテラシー教育の本質は何か より転載)