「ガラパゴス化」、このキーワードがビジネスの世界で
一般的に使われだして、どれぐらいになるだろう。
携帯電話の失敗事例が真っ先に頭に浮かぶ。
高機能で多機能過ぎた日本の携帯電話は、海外では普及せず、
日本でしか使われなかった。
日本市場だけに最適化し過ぎて、世界の巨大市場をつかむ機会を
逃してしまったのである。なんともったいないことか。
日本が経済力で光り輝き、ITの最先端ツールやしくみが
先進国でしか使われていなかった時代は何も問題はなかった。
しかし、いまや世界がマーケット。
しかも、そのほとんどが日本よりも遅れたマーケットなのだ。
先進国に最適化し過ぎたものは、これらの国では役に立たないのである。
家電業界のここ30年の栄枯盛衰も記憶に新しい。
韓国メーカーの台頭だけではない。
例えば、日本の高度成長期を支えて来た白物家電の雄・サンヨーは今はない。
一度は、パナソニックの傘下に入り、現在では中国のハイアールに
そのノウハウや技術は吸収された。そのハイアールは新興国、
後進国マーケットをターゲットに急躍進の予兆がある。
日本の戦後からの歩みを考えれば、私ぐらいの世代には
自然に理解できることである。
私は今でもときどき電気屋に行くことがある。
昔から技術派志向の私は、最新機器の進化が気になる。
洗濯機、冷蔵庫など一体どこまで進化するのか、興味津々なのだ。
しかし、考えてみたら、こんな高機能で多機能な商品を使って
生活のなにが変わるのだろうか?
ハイテクは本当に人々の生活を豊かにしているのだろうか?
ついつい余計なことも考えてしまう。現実を直視すると無用の長物に見えてしまう。
ハイアールはインド市場などで単機能の洗濯機を量販している。
ちょうど私が子供のころと似たような生活環境だと思う。
日本では洗濯機が自動化されだした時代だった。
それがいまや全自動は当たり前。日本の進化はもの凄いことだと思う。
ところで、20年後のマーケットとして世界の期待を集めるアフリカは
どうだろうか?まだ、電気が使えないところばかりだろう。
電気がなければ、家電は使いようがない。
先進国には、すばらしい技術やノウハウがたくさんある。
しかし、先進国のみで世界経済が発展する時代はとっくに終わった。
これからの企業は、新興国、後進国のマーケットにどれだけ
食い込むかが勝負だ。
日本のICT企業も、建設、物流、食品メーカーなど、
他の動きに乗り遅れまいと海外進出が視界に入ってきた。
日本で培ったソフトウェアやICTシステムの売り込みも
始まりつつあることを実感する。
私も日本のソフトウェアを海外に浸透させることにはおおいに賛成だ。
最大の理由は、日本のビジネスや技術ノウハウが凝縮されているからだ。
実際にセンスのあるアジアの現地経営者はこれを欲している。
しかし、最大のネックは価格だろう。
いくらオフショア開発で開発コストを低減しているといっても、
日本の価格を持ち込んだのでは勝負にならない。
ローカライズ化で成功を収めつつある食品メーカーなどと同じように、
現地で開発して、現地価格に適応させて現地で売る。これがベストである。
社会に資するソフトウェアやICTのしくみは、現地で生まれるのが一番だ。
しばらくは試行錯誤が続くだろうが、その国のビジネスのレベル、
社会生活のレベルに適応した商品がその国で生まれ出すだろう。
例えば、ベトナム最大手のIT企業であるFPTは一般消費者向けロボットの
開発に着手したようだ。ガラパゴスにならないうちに、日本のICTも海外
で活躍してほしいと切望する。
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(近藤 昇『ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する』
第2章 アナログとICTの両立を考える-日本のICTはガラパゴス化の同じ轍を踏むな より転載)