日本は人口が減少し続けていく。
政府発表によると2050年に1億人を維持できるかどうかの攻防だ。
今の子供たちの未来を考えるととても深刻な状況である。
さらに、高齢化が日本の課題といわれて久しい。
先進国として世界でいち早くこの苦境に突入したのが日本だ。
企業からすれば、人口が減ると顧客が減るし、なによりも労働者が減る。
経営者とすれば、背筋が寒くなる衝撃的な事実でもあり、
経営環境へ与えるマイナスの影響ははかり知れない。
すでに日本は多くの業界で労働力不足に陥っている。
顕著なのが、建設や農業などである。
建設業は特に東京オリンピックによる特需も重なり、
空前の人手不足に拍車がかかっている。
もともと、建設業界における職人の急減が深刻な問題として
横たわっていたところに今回の特需が押し寄せた。
問題の根本解決の議論が終わらないうちに激流に飲み込まれた形だ。
製造業では、以前からロボットによる自動化が進んでいる。
最近では、建設業や農業でもロボットの活用が話題になることが多くなった。
しかし、ロボットの活用は開発途上である。
建設や農業の労働力を代替するような、
本当の意味での実用化はまだまだ先になるだろう。
とはいえ、深刻度を増す人手不足解消の
有効な手段のひとつであるのは間違いない。
詳しく後述するが、介護の現場でもロボットの活用が期待されている。
老朽化しつつある社会インフラ、建設インフラのメンテナンスも
日本の深刻な課題である。
大きなニュースとなったトンネルの崩落事故の記憶は生々しい。
国民一様に不安が広がっている。問題は高度成長期に
大量に建設した橋梁、トンネルなどの定期メンテナンスを
誰がやるのかということである。
当然、膨大なコストがかかる。保守といえば、人手がかかる印象が強い。
しかし、日本にはその仕事をする人自体がいなくなる。
そこにICTの出番があるだろう。
センサーやロボットやドローンを利用したICTのしくみづくりが
効果的である。いままで省力化といえば、工場の自動化が代表選手だった。
これからは、ICTなどの技術の進化とともに
その役割は広範囲に広がっていくだろう。
もうひとつ忘れてならないのが、日本は災害大国であるという事実である。
地方の再生に向けて政府も力は入れている。
ところが、地方は高齢者ばかりである。
高齢者がほとんどの地域は災害に弱い。
何か起こったときの避難もままならない。
災害の予知や復旧の現場にもICTの活用の機会は増えるだろう。
日本人はそろそろ気づくべきことがある。
顧客が減って、サービスを提供する人も減る。
こういう時代に、過度のサービスを求めないことである。
日本国内のサービスレベルは世界でも超一流である。
外国から初めて来た人は皆一様に感動する。
綺麗に清掃された街、公共施設を見て、驚きの声をあげる。
考えてみれば、ホスピタリティを実現するほとんどの部分は人である。
人間のおもてなしや気配りのなせる技である。
こんな世界に誇れるこの国のサービスでも、不満を持ち、
モンスタークレーマー化するとんでもない顧客も日本には増殖している。
顧客が我慢を求められる時代が到来しているのだ。
人手不足の居酒屋で、注文した料理がなかなか
出てこないからといって怒らない。
たどたどしい日本語の外国人アルバイトを採用している
コンビニにも文句を言わない。
極端な話、ロボットが受け付けるホテルにも
不自由なく泊まれるのだから、それはそれで良いのだ。
一方、これからは人間によるハイレベルの
ホスピタリティには高いお金を払う時代が来る。
リーズナブルを求めるならば、過度なサービスを求めないことに尽きる。
ICTを賢く利用して、過度なサービス要求を助長してはいけないのである。
ICTを使うにしても、どんな効果を顧客が期待するかをよく考える。
囲い込みを目的に、一方的に、そして過度に使わないことだ。
こういう視点での経営が求められる時代が来たといえる。
――――――――――――――――――――――
(近藤 昇『ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する』
第1章ICTに振りまわされ続ける経営者-相変わらず、ITサービス会社の言いなり より転載)