第5回 「『信用』を誇りに、日本人はアジアとの共生を実現すべき」
アジアでビジネス活動を展開する身として何かと気になるのが、中国が中心と
なって創設されるアジアインフラ投資銀行です。すでにアジアを中心に各国が
参加を表明しているが、日本は参加を見送っています。
アジア新興国の経済成長により、アジア各国のインフラ整備は急務。同様の
役割を持つ日米主導のアジア開発銀行では対応しきれないインフラ投資をこの
アジアインフラ投資銀行が担うというが・・・果たして?
その動向にしばらく注目しようと思います。
とはいえ、このニュースを見て、率直に思ったことは、「インフラ開発は
そんなに簡単にできるものではない」ということです。つまり、新興国の
インフラ整備は“お金”を与えれば足りる問題ではないと思っています。
道路や空港をつくりあげることは言葉で言うほど簡単ではありません。短い
期間ですが、建設の世界に身を置いた経験のある私でも、そのことを痛感
します。なによりも、現場での作業は危険も伴います。そして、道路や橋、
ビルなどは人が利用し続けるものです。道路に無数の凸凹があれば車は
走れません。橋の安全性を確保するためには、正確かつ緻密な作業の連続が
要求されます。ビルの建設ひとつとってみても、同様の緻密さを要求されます。
突然、崩落するようなビルをつくるわけにはいきません。
ITの世界に長く身を置くと、この現場感覚が麻痺すると感じています。
キーボードひとつで軌道修正が可能です。しかし、道路や橋、ビルの建設は
そうはいきません。安全性を無視すれば事故が起こります。その結果、尊い
命が奪われることもありえます。だからこそ、「インフラ開発」や「インフラ
整備」という言葉を見るにつけ、こう思うのです。
「誰がそのインフラをつくるのか?」
以下のURLを紹介しておきたいと思います。
「ODA見える化サイト」(JICA)
http://www.jica.go.jp/oda/index.html
このサイトを見ると、つくづく日本という国が世界各国でさまざまな
プロジェクトを実行し、完遂してきたかがわかります。日本人として誇らしく
思う反面、「もっとこのことを対外的にPRすべきでは」という悔しい気持ちも
こみあがってきます。
世界各国、特にアジアで多くのインフラ開発援助を推進してきたのは日本です。
日本人として、そのことを改めて認識すべき時期がきていると思います。
私たちが活動するベトナムにおいても、日本の援助でつくられたさまざまな
インフラが市民に便益を与えています。今までは渡ろうにも渡れなかった川に
橋がかかり、交通が生まれ、商業が生まれます。老朽化した空港を近代的な
機能を兼ね備えた空港に生まれ変わらせ、人々の生活とビジネスを支えています。
こんな例がアジア中にたくさんあるのです。 だからこそ、日本がアジアから
「信用」されるわけです。 安全で、緻密につくりあげる技術とそれを維持発展する
ノウハウを日本は培ってきたからです。このことは日本人以上にアジアの人々が
実感しています。
ベトナムもIT業界の進展は目覚しいものがあります。今後飛躍が期待される
業界として、目指す若者も増加しています。しかし、本当の“現場の仕事”が
求められる建設業界などは、まだまだこれからの段階といって過言ではない
でしょう。
日本の真価を発揮する場所は勃興期を迎えるアジア新興国といえるでしょう。
お金を準備することは難しくありません。本当に難しいのは、その国の発展に
寄与するインフラをつくりあげることです。
今まで築き上げた「信用」を土台にして、お互いの共生を目指して進むべき
です。日本人がこの「信用」を誇りに、アジア各国のビジネスシーンで飛び回る
時代をつくりあげていきたいと思っています。