それは、「三度目の奇跡 日本復活への道」(日本経済新聞社)だ。
書き出しが、20歳になる君へとなっていて、書籍のコンセプトも新鮮だ。
3度目とは、明治維新、戦後、そして今という意味であり、
「今、奇跡を起こさないと日本は復活しない」というメッセージだ。
私はこの本の内容を勝手に自分なりにこういう風に解釈している。
日本は大震災で大変なことになったから奇跡を起こす必要があるのではなく、
実は大震災の前から日本は奇跡を起こさなければならない状況にあった。
そこに“青天の霹靂”の大震災が発生し、
本当に抜き差しならないところまで追い込まれてしまった。
絶体絶命のピンチなのである。
「だからこそ、即刻、動き出そう」
「一刻も猶予は無い」
「その主役は若者だ」
こんな考え方は、震災前から私が考えていたこととほぼ合致している。
とはいえ、日本復活のためには、一体なにをすればよいのかだ。
簡単に答えが出せるものではないが、手ががりはいくつかある。
東北地方の再生は絶対に達成しないといけないが、
これを実現したからといって奇跡が起こせるわけではない。
これは日本復活のための最低限の条件だろう。
真の復活のためには、今まで日本が経験したことのないことにチャレンジして、
結果を出す必要がある。
それは新たなマーケット開拓であり、新産業の創造であり、
やり方そのものの変革でもある。
すでにアジアマーケットの創造、獲得で日本は動き出している。
それとあわせて必要なことは技術立国日本の屋台骨を
支えてきた中小企業の復活だろう。
大企業だけが、アジアや世界で生き残ったとしても
日本の未来はない。
身近な日本の課題に照らして考えると、
例えば、環境・エネルギー産業の分野で、
これからの世界の羅針盤となるような新技術、
新ビジネスモデルを日本がリードし貢献することがある。
また、農業にしても日本にとっては深刻な問題だ。
拙著「アジアで農業ビジネスチャンスをつかめ!」でも提言したが、
日本の農業とアジアの農業が結びつき、相互の国の農業産業の発展に
寄与する仕組みづくりなども有望だ。
交通インフラ、社会インフラなどの新興国への技術・ノウハウ提供に
伴うビジネスの展開もこれからますます盛んになるだろう。
貢献できる分野やテーマは数多くある。
このように書くと、一見、バラ色のアジアや世界がありそうにも
思える。
しかし、そう簡単ではない。
そもそも、新たなビジネスはリスクを伴うし、まして日本人にとっての未知の国、
アジアでビジネスをするなんて危険極まりない。
確かに大震災後3ヶ月目にして、日本の経営者は積極的に動き出した
感がある。
当社の東南アジア戦略の拠点のベトナムでも、この動きを感じている。
一気に進出ラッシュが始まっているのである。
この動きはますます加速されることは間違いないだろう。
さまざまなリスク要素にどう対処していくと良いだろうか。
回避できるリスクは回避していくのがリスクマネジメントの基本だ。
単に、小さな成功を積み重ねるのであれば、
今の日本人が“日本人のまま”でアジアでビジネスすればよいと思う。
飲食業にしても、建設業にしても、小売業にしても・・・。
ただ、冒頭で書いたように、
3度目の奇跡を起こすためには、今のままの日本人が変わらないと実現は
難しい。
よく、ベトナムなどの現地に長年住んでいる人は、
したり顔で、ここで成功したければ、ローカルの生活を体験して、
ローカル目線で物事を見て、ローカルの感覚を身に付けないと・・・。
このような、もっともらしいことを言う。
私は、これでは全く不十分だと考える。
確かに、日本人目線からベトナム人目線への第一歩は踏み出したことには
なるが、もうひとつ重要なことが欠けている。
それは、ベトナム人の経営者感覚である。
日本人経営者からのこういう質問も結構多い。
「日本と比べて現地の物価はいくらですか?」
「もし、現地で儲けたら、日本にもってこれますか?」
今の日本のビジネスモデルを持ち込んで・・・という考えを全く、
否定するわけではないが、
こういう思考回路がすでに日本人経営者感覚なのだ。
ベトナム人は、全くそんなことは考えない。
はじめから、ベトナムの物価、環境、消費者の気質、動向などを前提に、
商売し、儲けるかを考えているのである。
先進国の真似はすることがあっても、ベースはベトナム目線だ。
当然のことながら、こういう次元では今の日本の経営者感覚はほぼ
役に立たない。
むしろ、日本人経営者感覚は、アジアビジネスには足枷になる。
ここは日本ではなく、ベトナムなのである。
この国の経営者の感覚を肌身で感じて、
経営者の感覚でビシネスを考えてこそ、
ビッグチャンスが生まれるのである。
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