社長は69才の元自動車メーカー出身の越丸さん。
会社は株式会社トータルベストの現地法人。
首都バンコクから車でハイウェイを走り約1時間。
レンタル工場が整然と立ち並ぶ工業団地の中に、
洗車機の生産拠点があった。このあたりは、昨年の洪水で半年近く使用不能になってしまった場所。
今は、私が見た限りではその被害の跡は見られないが、
昨年のことを想像すると同じ経営者として心が痛む。
全く予期せぬ出来事だっただろうから、経営者にとっては苦難だったと思う。
特に体力の弱い中小企業にとっては。越丸さんもまた、洪水の被害で半年ほど
操業停止を余儀なくされた経営者のひとり。
創業時の大事な時期に出鼻をくじかれ、今は正念場とおっしゃる。
現地では製造中の洗車機とテスト用の完成された洗車機を見せていただいた。
私も日本でユーザーとし何回も利用したことがあるが、
その洗車機の中身を見る機会が来るとは夢にも思っていなかった。
しかもタイで。
工場内も見せていただきながら、いくつかの驚きがあった。
ひとつは部品が多いことだ。
日本からも取り寄せているが、コスト面なども考えて、
出来るだけ現地調達に切り替えたいと、越丸さん。
今まで何度もトライしながら、部品メーカーを探して育成してきた。
今後も部品調達などのパートナー発掘が大きなテーマという。
もうひとつ驚いたのは、
洗車機がセンサーなど最先端の技術を駆使した装置であること。
当然、制御するソフトウェアの性能も大きなウエイトを占めている。
日本人のエンジニアが1人、タイ人のエンジニアに教育しながら、
現場仕事をしている姿は、日本の中小企業の未来を垣間見たような気がした。
日本の技術やノウハウは世界でもトップクラスであり、
今までは単純に労働集約型の工場進出が多かった。
今後は、技術移転や技術者育成による
ローカル企業との連携、合弁などが増えるだろう。
この分野で中小企業の可能性も限りなく広がると思う。
販路開拓の話も興味深い。
タイをはじめ、インドネシア、マレーシア、ベトナムからミャンマーまで、
急速に車社会が進展し、高級車が急増している。
洗車機ビジネスに勝機ありと、目を輝かせている越丸さん。
分野は違うが東南アジアでビジネスをしている私も
確かに大きな可能性があると感じる。
これからは、現地生産・現地販売の時代だ。
越丸さんのケースはまさしく、日本で培ってきた技術が
アジアで花開かせようとしている。
日本の高度成長期を支えてきた中小企業の特徴は、
大企業の系列であったり、下請け先として発注元の要求する部品や製品を
忠実に作ることに徹してきた会社がほとんどだ。
このしがらみの中で、アジアへの進出もかなり多い。
日本国内から、アジアへ生産拠点を移管する際には、
取引先に対しても強い要望を出す。
決して後ろ向きな進出とはいわないが、
アジアに出ても生殺与奪の権利は大手企業の取引先にある。
なんだか寂しく感じる。
また、取引先の要請がなくても、先細る受注で採算が悪化してきた企業が、
コスト削減の起死回生策として、アジア進出を検討する。
進出先の経営環境はどうだろうか?
大企業と違って中小企業は体力がない。
リスクヘッジも相当念入りにしないといけない。
工場にとって、コスト負担の軽いレンタル工場はベストな選択。
各国政府も日本政府と連携して、
中小企業の進出基盤の整備に躍起になっている。
特にベトナムは裾野産業の育成が叫ばれており、
昨年から、中小企業の進出支援が本格化してきた兆しはある。
しかし、必ずしも明るい話ばかりではない。
日本に残るもアジアに出るも、中小企業にとってはハードルが高い。
レンタル工場は用意できたとして、ワーカーやエンジニアの確保は困難だ。
特にタイでは人材不足が深刻である。
他の国も遅かれ早かれそうなるだろう。
越丸さんのように、製造販売まで狙っていけば未来の可能性は無限に広がる。
しかし、現地での販路開拓にはそれ相応の投資と覚悟が必要。
ボスが先陣きって乗り込まなくてはならない。
そこで、私が勧めるのが業務提携や資本提携だ。
日本の技術の流出を心配する専門家は沢山いるだろう。
しかし、中小企業といえども国籍は関係ない。
こういう国際結婚が沢山増えるのが、ごく自然な成り行きだと思う。
教える、伝授する、リスペクトされる。
好循環は間違いない。
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