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“百聞は一見に如かず”の前の一見がビジネスを変える

人間は思い込む動物である。
年齢を重ねてくると、人間は長く安全に生きていくために必要な思い込みが
頭を支配してくる。私の周りでも、思い込みの人は多く存在していると感じている。
脳科学の専門家の話にしても、そのことがよくテーマに挙がる。
思い込みは、近い意味では固定観念と言い換えることができる。
英語で言うと『ステレオタイプ』となるか。
この思い込みはビジネスでは弊害になることが結構多い。
また、思い込みが強い人との仕事はなかなかうまくいかない。
業務改善の実行、新規事業やイノベーションの創造には特にこの「思い込み」が
邪魔をする。経営環境が激変する日本企業において「思い込み」こそ鍵を握ると
いっても過言ではない。

ますます重要度を増す経営課題のひとつである海外進出においてもこの思い込みが
ボトルネックになっているケースが多い。
ここ最近、新興国である東アジアやインドへの企業進出が本格化してきた。
弊社が20年近く活動しているベトナムでもいよいよ本格的な進出ブームが
到来している。少し過熱気味のベトナムブームは、日本人特有の性格が大きく
影響していると思っている。それは『皆で渡れば怖くない』である。
長年、日本企業はリスクをとることを恐れ、チャンスを見るよりも先に
心配が先に立ってきた。
故に、日本は韓国や中国に比べ、圧倒的に東南アジア進出で出遅れた。
今、日本国内から見ていると一見、日本は巻き返しているように見える。
しかし、相手がひと休みしているわけではない。
海外から常に日本を見ている私にとって相変わらず日本は出遅れているといえる。
別の言い方をすれば、ベトナムにしてもカンボジアにしてもミャンマーにしても、
彼らの本音はこうだ。

「もう待ちくたびれました。
 今度こそ、ラストチャンス。
 これ以上待てません。」

アジア進出がこれから盛り上がると思っている日本人。
一方でそんな日本勢はラストチャンスと見ているアジア各国。
このギャップに日本人や日本企業は気づいているのだろうか?
この認識のズレはいまだ埋まっていないのである。

実際、中国などの近隣のライバル達は猛烈な勢いで狙いの国を攻めている。
カンボジアは、先日のASEAN外相会議において南シナ海の領有権問題を
めぐり、ほぼ中国寄りの発言に徹した。
これは単なる一例に過ぎないが、いくら日本と一緒にビジネスや国の発展に
取り組みたくても、来てくれなければ、彼らはいつまでも待たない。
カンボジアはすでに中国に国をあげておんぶにだっこの状態だ。
日本の煮え切らないこういう不甲斐なさは長年、
NATO(ノーアクショントーキングオンリー)と揶揄されている。
この日本のNATOの原因はいくつかある。
まず、大企業の経営者や中小企業の二世・三世経営者が慎重すぎて決断が鈍る。
石橋を叩きすぎて壊してしまう感覚は今も変わらない。
しかし、もうひとつの原因も大きい。
冒頭から紹介している「思い込み」だ。
この「思い込み」によって千載一遇のチャンスを逃す経営者も相当多い。
海外を知らない、仮に海外を知っていても先進国しか知らない日本の経営者は、
間違いなく、新興国がビジネスができる場所ではないと思い込んでいる。
日本と比較すれば50年くらい昔の状態だと思い込んでいるのである。
これは、初めて新興国に訪れた経営者の第一印象を聞けば如実にわかる。
例えば、自治体や商工会議所が主催する視察ツアーで新興国を訪ねる。
海外通の友人に誘われるがままに現地に訪れる。
最近、こんなお付き合いレベルの新興国訪問も増えてきた。
こんな彼らが、ひとたび、ベトナムやカンボジアなどを初めて訪れて、
発する第一声はたいてい皆一緒だ。

「こんなに進んでいると思わなかった」
「こんなに車が多いとは」
「スマホを普通に使っているじゃない」
「高層の建物がたくさんあるのに驚いた」

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現代の日本では感じることのできない熱気や活気に感化され
テンションが上がる。
そして、日本への帰路につく頃には、必ず皆たいてい同じことを言う。

「来てよかった」
「こんなことなら、もっと早く来ればよかった」
「絶対現地で何かしようと思う」

シニアの人ならこんな想いを抱く。

「昔を思い出して、元気になった」
「刺激になった」
「ここでもう一度チャレンジしたい。もう一花咲かせたい」

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この20年、新興国を初訪問する多くの日本人経営者に関わってきたが、
誰一人として「期待はずれ。もう来ない。こんな場所は2度と来ない」という
反応を示すことはない。
毎回繰り返されるこの現象はなんだろう?
この根本的な原因をずっと考えてきた。
何度考えても、行きつく答えは「思い込み」なのだ。

百聞は一見に如かずという。
つまり、一見した瞬間に現実に気づく。
要は行ったことがないから、昔からの思い込みのままなのだ。
ベトナムならベトナム戦争のイメージがいまだこびりついている。
フィリピンはかつて発生した日本人誘拐事件のイメージだ。
どこかで見た衝撃的な映像のワンシーンやニュースの残像に支配されている。
日増しに、東南アジアなどの新興国に関心が高まる現代においても、
きっと、大半の日本の経営者がまだ思い込んでいる。
私もその思い込みに毒されていた1人だ。
先日、初訪問したアフリカはまさに「思い込み」そのものだった。
日本にとっても、アフリカの存在が知られていないことは機会損失に
ほかならない。

アジアやアフリカはリスクが多い。
そして距離も遠い。
商売なんて成り立たない。
自社のビジネスにはそもそも関係がない。

おおよそこのように思っている経営者が大半だ。
その経営者の意識が少しでも変われば日本は劇的に変化するはずだ。
何かのきっかけで新興国を知ることができれば日本は変わるだろう。
現地での一見はとても大事な最初のアクションだが、それだけでは不十分だ。
日本に戻ってきて、現地で感じた『熱』がすぐ冷めてしまうのも日本人の特徴だ。
とはいえ、コスト、労力などを考えると頻繁に訪問できないのも現実だ。
一見の後も、その熱を維持し続けるのもとても重要なこと。
日々急速に変化する現地の様子を継続的にキャッチアップする必要に迫られる。
今は、ICTを使えば色々なことができる。
ぜひ、これを活用していただきたいと思う。

余談だが、逆の思い込みの人にもたまに出くわす。
例えば、ベトナム。

「もう進出しても遅い。今はミャンマーです」

こんなことを言う人も多い。
大抵は、人の話を鵜呑みにする人だろう。
自分で確かめないからこういうことになる。
なんともったいないことか。

東南アジアなら、まだ訪問する際のハードルは低いだろう。
しかし、20~30年後のことを考えたら、
インドやアフリカも視野に入れておかなければならない。
しかし、インドやアフリカに行くのはまだまだハードルは高い。
まして、変化をキャッチアップするのも大変なことだ。
今、ICTをビジネスに有効活用できるシーンが劇的に広がっている。
ビジネスは変化している。
海外を知らない日本の経営者に積極的に提案したいと考えている。
「百聞は一見に如かず」はそのとおりである。
しかし、その『一見』の前にオンラインのコミュニケーションの仕組みを
組み込んだらどうだろうか?
オンラインではさまざまなことが可能になる。
イノベーションもどんどん生まれる。

例えば、オンラインでベトナム現地からベトナム人の講演を聞くこともできる。

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もちろん、通訳をつけることも問題なし。
オンラインでベトナム人と面会もできる。
商談も自社PRもできる。
先日、アフリカのウガンダに駐在する弊社の社員がオンラインで現地から
セミナーを行った。生中継である。
日本の視聴者の皆さんはとても刺激を受けたという反応であった。
確かに日常ではありえない体験である。
あれほど遠いと感じていたアフリカの距離が少し近づいた気もした。

毎回現地に行くのは時間的にも大変だし、コストもかかる。
ならば、つなぎはオンラインを活用すればよい。

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とはいえ、現地の人と親しくなることもとても重要だ。
お酒を飲みに行ったり、ゴルフを楽しんだりすることで親交を深める。
しかし、毎回会う必要はないだろう。
今は、スカイプも世界中で使える。
もっと、便利なコミュニケーションサービスも登場するだろう。
一見の前に『オンラインでの一見』こそこれから必要ではないだろうか。
ここに意識を傾けると必ずしもすぐに一見できなくても「思い込み」を
取り除くことも可能な時代なのである。
オンラインでのコミュニケーションこそ、遠くて内弁慶な日本人の
大きな武器になることは間違いない。

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