• アジア
  • ブログ

アジア、アフリカと日本の人材交流が双方の農業を発展させる

2016年10月2日の日経新聞朝刊の一面の記事はとても興味深い内容だった。

「農業でも外国人労働者」の見出しはインパクトがある。

アジアやアフリカなどの海外と日本を重ね合わせたフィールドで、

双方の農業問題の解決をビジネスのひとつとしている私としては、この記事には

興味津々である。

見出しの一部を引用する。
「政府は国家戦略特区を活用して、農業分野でも外国人労働者の受け入れを

解禁する検討に入った。一定の実務経験を持つ専門人材に限って受け入れ、

日本人と同等以上の賃金を支払うといった条件を課す」
なるほど。

見出しだけの印象だとこれはなかなか画期的かもしれない。期待が膨らむ。

さっそく内容をじっくり確認した。

今の日本の農業の深刻な担い手不足についても書いてある。

一方、ベトナムやインドネシアなどの東南アジアの新興国は農業人口が

豊富であるとも図表で表現している。

農業の専門人材の受け入れは、まずは特区で解禁を検討ということだが、

これから議論が始まるようだ。
画期的な記事なのだが・・・現状はこんなのんびりしている場合ではない。

私には少しがっかりだ。

地元の農業協同組合などが受け入れ窓口にとの構想も書かれている。

やはり、今までの枠組みでしか考えていないようだ。

安全に手堅くという発想から脱却しきれない。これではとても間に合うとは

思えない。

この記事の最後には、技能実習生の問題にも触れている。

だから、専門人材の活用に軸足を移すとある。シナリオは素晴らしい。

だが、実現にはとても困難な道であると私は思う。

技能実習生の問題は一般化してきた製造業の現場で、常にメディアでも

問題視されてきた。

実際、私も国連などから強制労働の温床と非難されていることは知っている。

この制度の活用には、そもそも常に光と影、本音と建前のギャップが

あるのである。

私もベトナムの実態はそれなりに把握しているが、

ベトナムの人材派遣業界は、今、好景気に沸いている。

これだけ日本の人手不足からの需要が発生すると、

ビジネスとしては相当なマーケットだ。

日本国内では、法律上は技能実習だから研修目的になる。

一方、ベトナムの人材関係の経営者は、人材を地方から集めて日本語を教えて、

日本に送り込む。

いわゆる人材派遣の感覚だ。

日本の実態とのギッャプ感は10年以上前からあまり変わらない。

この日経新聞の記事には、農業分野での技能実習生の数は、

約2万4千人と書かれている。

最も多いのは中国人だろう。

しかし、この農業分野でもベトナム人が急速に増えている。

ベトナム人の人材系の経営者と付き合っているとよくわかる。

この記事にもあるが、技能研修生のトラブルも後を絶たない。

最近、こんな書籍も発刊された。

ルポニッポン絶望工場」(講談社+α新書)
この衝撃的なタイトルをどう感じるだろうか。

日本人の便利で快適な生活の裏側には、過酷な労働を強いられている

技能実習生が数多く存在する。

それは日本人がやりたがらない仕事が大半だ。

研修制度とは名ばかりで、単なる労働者として扱う企業が後を絶たない。

この実態を国が知らないわけがない。

ここに本音と建前の世界がある。

もちろん、制度を正当に活用している企業もたくさんある。

農業だけではないが、製造業や建設業など、日本の企業は

慢性的に深刻な人手不足だ。

日本の基幹産業は多くの技能実習生に支えられてきている実態は、

日本人のビジネスパーソンですら、誰もが知っているわけではない。

農業の現場や漁業の現場を今の若者は知らない。

このあたりは拙著「アジア人材活用のススメ」でも述べさせていただいた。

日本が安い人件費で海外の労働力のみを搾取するという構図では、

中長期的に見れば、双方の国にとってプラスになることはない。

農業の分野でも自国で実務経験がある専門人材が日本で働く機会を

つくることはとても良いことである。

日本で学んだ彼らが、自国に帰り、日本で学んだ技術や経験をもとに、

自国の農業の発展に貢献できるならば、双方の国にとってとても

良いことである。だが、今の日本の農業の現場の労働力の絶対的な不足が

解消されるわけではない。技能実習生の層に対してのケアと帰国後の活躍の場を

つくることの方がもっと大切なのである。この記事を見たかぎりでは、

やはり日本は自分たちの都合だけで枠組みをつくっている。

ベトナムやミャンマーの農業に携わる人や農業ビジネスに取り組む経営者の共通の目標は、

日本人に手伝ってもらったり、日本企業と連携して、品質の良い安心・安全の農産物を

つくり、日本などに売ることである。

日本の農家が、品質の良い価値の高い野菜や果物を海外に売りたいのと同等以上に、

アジアの農業の関係者は日本に売りたいのである。

 

  

  

 

政府が農業の深刻な課題の解決に動くことは間違いなくプラスになることである。

ただ、それは日本の国のためだけを考えていては中長期的には正しい戦略とはいえない。
最後に、この記事に出てくる、地方に活力という点にも触れておきたい。

農業人材の不足で地方の重要な基幹産業の農業が衰退している。

だから、専門人材を地方にとも書いてある。

部分的には間違いない。ただ、相手の国のことを考えれば、もっと次元の高い

人材交流が実現できるはずだ。

農業人材の出身地はアジアにおいても地方であることが多い。

その地方は自国の都市部とのギャップに悩んでいる。

経済発展を進めたいが方策が見当たらない。

工業化優先で農業などを衰退させてしまった日本を反面教師にするならば、

今から第一次産業の発展を軸足において、日本と連携していくことが重要である。

地方と地方の連携は、時代は異なるが同じ立場であるがゆえに、

つながると様々な相乗効果が生まれるのは間違いない。

 

 

 

  

—–