BtoBであろうが、BtoCであろうが営業担当が商品やサービスを
売ることは世界共通である。
営業担当は『もっとも人間力が磨かれる』仕事のひとつであると日本では
よく知られている。その一番の理由は、人間力を最大限に発揮して営業活動を
行い、顧客との信頼関係を勝ち取ることで商談の90%以上は決まるからである。
もちろん、商談の成功には商品が優れていることが重要だし、自分の会社の信用、
つまりブランド力も大切だ。また、顧客攻略のノウハウといったような
営業のテクニック論など、その他さまざま重要な要素はある。
では、人間力で勝負とはどういうことか考えてみる。
人間力とはICTがデジタル的であるということに対比して、アナログ的で
あるかどうかと言い換えることができる。
現代の営業スタイルにおいて、このアナログ的な要素とデジタル的な要素を
改めて考えてみよう。
ここ最近の営業活動はICT最先端ツールを駆使しているケースが大半だ。
スマホで予定のチェック、スマホで訪問場所や地図を確認することは当たり前。
プレゼンはパワーポイントで作成し、時には動画も活用する。
タブレット端末を巧みに使いこなし、商談を展開していく。仮に営業商談で
ICTツールを使わなかったとしても、その説明資料などは
さまざまなアプリケーションで作成されているだろう。
また、組織的営業活動はその活動の行動管理やプロセス管理もとても重要だ。
ここ数年、SFA、CRMなどのICTによる営業活動管理、顧客管理などは
今や一般的になりつつある。(※2016年発刊当時)
今の日本のような先進国で、営業の予定やプロセス管理を手帳のメモだけという人は
シニアには多いだろうが、すでにマイノリティになりつつある。
現代の営業活動を振り返ると、かなりのシーンでICTは当然のごとく使われている。
もはや、これ以上の営業活動の効率化やより次元の高い商談を求めることは
難しいのだろうか?
もう一度、別の視点で営業活動の基本パターンを振り返ってみる。
顧客接点ゼロという状況から考えてみるとわかりやすい。営業の第一歩は、
なんらかの手法で顧客候補を見つけることが第一歩である。
問い合わせや紹介が理想だが、今でも変わらずテレアポや飛び込みは有効だ。
こういう行為は、営業としてのメンタルトレーニングも兼ねている。
アナログ的営業の典型ともいえるだろう。そこに加えて、最近ならば
企業ホームページにダイレクトにメールなどでアプローチできる。
次は、潜在顧客が見つかったら、訪問の約束をして、顧客との面会に向かう。
BtoB、BtoCそれぞれの商談の進め方に違いはあるが、
冒頭で述べたように、いずれの場合も営業では人間力こそ最大の武器である。
この人間力は人間的魅力ともいえるが、具体的にどういうことだろうか。
初訪であれば、第一印象は絶対だ。身だしなみ、マナーなど、気を配ることは
山ほどある。初訪で好印象ならば、次はクロージングに向けてのフォロー活動だ。
もちろん、一発クロージングが望ましいが、平均的には何回か顧客との面会となる。
ある灼熱の日本の夏のシーンを考えてみよう。
今でこそクールビズが当たり前になったが、一昔前までは、どんなに暑くても、
ネクタイにスーツがスタンダード。極端な話、顧客に会う寸前までネクタイを外し、
スーツの上着は手でわしづかみ。顧客に会うときには、涼しい顔をして、
顧客に一生懸命さと誠実さをアピールする。少なくとも10年以上前の
日本の基本的な営業スタイルはこんな風景が当たり前だった。
冬は冬で、どんなに寒くてもコートを着ずに走り回り、
元気さと気合をアピールしていた。私が社会人駆け出しの頃は、
少なくともこういう環境を肌で感じてきた。
今は何が変わったのか?
そもそも営業活動は楽になったのか?
クールビズになって、灼熱の夏の季節だけは営業活動もライト感はある。
しかし、今でもまったく変わらない風景もたくさんある。
それは、嵐であろうが雪であろうがどんな天候でも顧客に訪問する
という姿である。時には、満員電車に詰め込まれて移動し、
乗り継ぎにピリピリしながら、移動だけで神経が磨り減る。
顧客が遠方の地方でも今の営業の基本パターンは、まず顧客のオフィスに
訪問することからスタートする。この風景こそ、いかにも一生懸命であり、
誠実でアナログ的な象徴である。もう滅多に見かけなくなったが
「灼熱の中のスーツにネクタイ」も同様だろう。
営業はお客さんに直接会うのが当たり前である。ところが、
この当たり前を疑うと営業活動は劇的に変化していく。
海外とのビジネスで考えると、とてもわかりやすい。
海外での商談では計画通りに顧客に会うことすら大変だ。
ひどい渋滞に巻き込まれたり、逆に相手がドタキャン・・・なんてことも
日常茶飯事だ。顧客に会うことがスタートであるならば、
そのスタートまで到達するだけでも日本と比較するとハードルが高い。
当社が活動しているベトナム国内のBtoB営業を例にあげて説明しよう。
大都会で知られるホーチミンだが、いまだ電車は存在しない。
当然、タクシーなどの車移動になるが日本のように充実したサービスは
期待できない。渋滞やスコールで時間の遅延要因は山のようにある。
常にそういう環境なので、約束時間はあってないようなもの。
前出のように日本では考えられないドタキャンも発生する。
ところが、彼らには言い訳がたくさんある。
先ほどの渋滞やスコールだけでなく、不便な環境だからこそ
言い訳がいくつもピックアップできるのだ。
また、営業担当に通訳も必須になる。英語ができる相手でも、
やはり高度な越日の通訳が必要だ。そして、その通訳の手配も大変。
ハノイでの商談にホーチミンから通訳を連れて行くには当たり前だが、
コストがかかる。日程調整して、飛行機の手配もしなくてはならない。
ひとつの商談がとても大がかりだし、コストがかかる。
当社が、こんな環境下で長年、営業活動、ビジネス活動をしてきて、
自然と取り組んできたのがオンラインでの商談だ。私達は今のような
スカイプやクラウドサービスがある時代の前からオンラインでの
コミュニケーションに取り組み続けてきた。当初は、ポリコムという
世界トップシェアのテレビ会議システムを使っていた。
どうだろうか?
日本人もベトナム人もお互いの利害関係が一致しているのが、
オンライン商談なのである。実は、このような人付き合いの方がメリハリが
利いている。合理的だが、とてもウエットな関係も築くこともできる。
一方、今の日本を見てみよう。すでに、ICTの目覚しい進展により
オンラインでビジネスをするには絶好のインフラが用意されている。
しかし、日本の営業活動はなかなか劇的な変化はしない。
なぜか? 最大の理由は営業という活動を旧態依然のままアナログ的なものとして
思い込んでいるからである。
営業は人間臭く、一生懸命汗をかいて(あるいは寒さに耐えて)、
顧客に会いに行くものだ、と。日本の営業に対する顧客の期待感も
ここにある。そうでなければいけないという固定観念が
染みついているのだ。海外からICT活用という合理的視点から見て、
いったんアナログの重要性を無視して考えてみる。
すると、営業商談はオンラインで行うのがとても効率的で
売る側と買う側双方に多大なるメリットがある。
今のICT活用のテーマの中でも、簡単に効果がでるベストの選択といえよう。
この先将来は、売る側と買う側共にAIが商談するかもしれない。
この点は未来の議論として置いておきたい。
さて、営業をオンライン化ですることが、日本のビジネススタイルを
劇的に変革する起爆剤になりえるのである。
単純なところからメリットを考えてみる。
・訪問先への移動時間が不要になり有効活用できる
・移動交通費が不要になる
・天気に左右されないため余計な苦労がなくなる
・交通手段のアクシデントも気にしない
さらにメリットとして次のような商談機会の質の向上を実現できる点もある
・同行者(オンラインでの)が柔軟に調整できる
・部下の商談を上司がいつでもフォローできる
・OJTの絶好の場でもある
そして、当社の体験から以下も大きなポイントとして考えている
・世界中どこからでも、商談ができる
・したがって、ビジネスが楽しいし、効率的
・アシスタントを連れていく必要がない
・通訳を連れていく必要がない
挙げだしたら、まだまだメリットはある。
では、ここでデメリットを考えてみよう。やはり、アナログ的な
人間的魅力が損なわれるのか? 顧客もこちらも、社会全体が
ICTのメリットを享受して、オンラインですべての営業商談が
進むようになれば、国の課題でもあるシニアの活躍の場の創造、
テレワーキングの推進、在宅勤務の普及などすべてがつながって
解決に向かうはずだ。では、差別化要素ともいえるアナログ的な強みは
どこで発揮するのか? それこそ、いくらでも工夫ができる。
何も営業商談の場面である必要はない。人と人がコミュニケーションを
アナログ的に行い信頼関係を構築する方法はいくつもある。
ゴルフでもよいし、スポーツでも飲み会でも社会貢献活動でもよい。
顧客がそれでも、直接の面会だけを好むのであれは、
そういう営業スタイルに特化した企業が生まれるだろう。
ただ、それはBtoCの世界であって、BtoBではありえないと
考えている。なぜならば、企業活動の本質は常に合理化と効率化の
追及であり、無駄の排除が原則だからだ。今時、ホームページを持たずに
ビジネスを行う企業が少数派であるように、オンラインで営業をしない企業が
ごく少数派になる時代が近づいている。アナログを大事にするからこそ、
ICTを効果的に使うのだ。
オンラインを使うと、何よりも驚く人が多い。映像のスムーズさや、
相手とこの場でコミュニケーションをとれることの新鮮さに改めて
感動してくれる。そして、自ら一度体感するとさまざまな活用シーンが
頭にイメージできる。「あんなことに使えるかも」という発想が
そこから生まれ、やがてそれらが小さなイノベーションへと
変容するものと確信している。「訪問しなければいけない」という
思い込みがなくなった瞬間、アイデアが湯水の如く湧いてくる。
思い込みの『壁』がなくなれば変化が速い。
それは歴史も教えてくれている。
日本が世界に先駆けて、オンラインを駆使した人間味あふれる
ビジネス活動を実現し、世界のお手本になる絶好の機会である。
世界から見て、「働きすぎ」「労働生産性が低い」と揶揄される日本。
必ずしも、そういう論調が当たっているとも思わないが、
もっとスマートに人間らしさを発揮してビジネスをすることには大賛成である。
私自身、オンライン商談を日本が世界にリードして広げていければと
考えている。スマートでかつ人間らしいビジネスのお手本の国として
日本が世界に存在感を示す絶好のチャンスでもある。
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(近藤 昇 著 2016年10月15日発刊
『もし、自分の会社の社長がAIだったら?』
PARTⅡ 企業経営への提言-【提言19】オンラインで営業活動とビジネスが劇的に変わる より転載)