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【提言2】顧客に正直な商売はどこへいったのか?


今やインターネットやスマホで物を買うのは若者に限らず
シニアまで当たり前になった。
インターネットで買い物といえばECがすぐに思い浮かぶ。
今ではEC以外にも多くの商売の仕組みがインターネット上で用意されている。
便利なことだが、少し考えたい。逆の見方をすれば、ICTが社会において
当たり前の存在になる中、私たちの生活は至る所に余計なものやサービスを
買わせる仕組みがあちこちに埋め込まれているといえよう。


ポイントカードも増えてきた。小売店やレストラン、ホテルなどの
メルアド獲得も今や当たり前である。いずれの方法も目的は顧客の
囲い込みにある。潜在顧客やリピーターとして、個人にリーチする
チャネルづくりに企業側は血眼になっている。
気軽にひとたび登録してしまうと、それをきっかけに巧妙な仕掛けが
次々と動き出す。


今の企業の関心事は簡単に言ってしまえば、いかに顧客に
気づかれないように物を買わせ、サービスを受けさせるかである。
パソコンでインターネットを利用するのは今や当たり前だが、
これがスマホの世界だと特に顕著になる。スマホはそれこそ、
いつでもどこでも使えるツールになった。
触れる頻度が多い分、落とし穴にもはまりやすいといえる。


私も仕事でスマホをよく使うが、想像以上に多くの利用時間を
費やしていることに気づく。国内であれば移動中の電車の中。
良くないとはわかっていても、時には歩きながらメールを見たりもする。
日本の地方に頻繁に出かけ、日常的に海外出張も多い。
あちこち移動しているとスマホはとても便利だ。
小型ノートパソコンすら今や煩わしさを感じる。
限られた時間や僅かなスペースにスマホは良く似合う。
使わずにいられない状態にしてしまう巧妙な罠が仕組まれていると
知りながらも使ってしまう。私は仕事で使う頻度が高い分、
プライベートではあまり使わないことにしている。
ニュースなどを見るぐらいでSNSもほとんどしないし、
ゲームはまずしない。つまり、一般の生活にスマホを利用する
ユーザーではない。とはいえ、本来はスマホにのめりこまなくても
便利で快適な生活を送ることはできるはずだ。


しかし、現実は違う。小さなスマホで、窮屈な電車の中や
移動中に今の日本人は仕事以外でもスマホ漬けになっている。
相当多くの人たちが、スマホでレストランを探し、スマホで就職活動をし、
スマホで買い物をする。本の購入などは10年前と隔世の感がある。
アマゾンなどは朝に注文した本が夜には家まで届くサービスを
提供している。私も時々利用して、このサービスの利便性を
享受しているので文句が言いたいわけではない。


今の時代、便利であることは売り手の罠が数多く仕掛けられている
ということである。顧客は商売する側の餌食になりやすい時代なのである。
にもかかわらず、大半の人が巧妙な仕掛けに気づいていない。
スマホに限らないが、今の日本の商売の仕組みの大半が、
いかに顧客の知らないところ、気づかないところで『買い物をさせるか?』
という一点に執着している。言い換えれば、いかに余計なものや
サービスを買わせるか、ということだ。
これは、人間の浪費を助長するビジネスといえるだろう。
このままではますます日本の浪費は増えるばかりだ。
ただでさえ、日本にはどれだけの中古品が溢れているのか。
海外から見れば、日本の消費の異常さがよくわかる。


一昔前、クーリングオフが整備されていなかった頃、
とにかく契約させることがすべてといった商売が横行していた。
しかし、それはごく一部であった。実際には顧客に正直なビジネスも多かった。
高度経済成長期が終わりかけた頃から、日本では顧客満足度(CS)向上が
経営の最重要課題と位置づけられ、企業はさまざまな取り組みを推進してきた。
「おもてなし教育」や「店の雰囲気づくり」、「アフターフォロー」、
「丁寧なクレーム対応」などなど。具体的な改善テーマは山のようにある。
そして、今も多くの企業でその取り組みは続いている。
私達も企業支援サービスの一環で、顧客満足度向上支援や
顧客づくりの支援を数多く提供してきた。
こういう活動を見ていると、日本は顧客を大切にし、
『お客様は神様』の国をひたすら目指しているかのように映る。
しかし、昨今の様にICTが巧みに世の中に浸透し、顧客から
見えない世界でICTが使われだすと、そんな日本の顧客満足向上の
精神に疑いの眼差しを向けたくなる。この不自然で不条理なビジネスは
専門家のみならず、一般のお客様も気づきだしている。
「日本の商売の仕組みがおかしくなってきた」ことに。


個人情報の扱いひとつを見ても、複雑怪奇だ。国の方針にしても
試行錯誤を繰り返している。個人情報をとにかく商売に使いたい企業と
プライバシーを守りたい個人と、何が何でも景気を上向かせたい政府。
それぞれの思惑の中で、いまだに明確な個人情報についての
ガイドラインは定まっていないのが現状だ。さらに輪をかけて
国民を悩ますマイナンバー制度が登場した。不安が募るばかりだ。


スマホを使っていて誰しも経験したことがあるだろう。
なぜ、解約する手順があれほど複雑なのか。
しかも、ある一定期間に解約しないと無駄な料金を取られる。
うっかりしていると、とんでもない無駄金を使うことになる。
アプリもそうだ。購入は簡単なので、何気にアプリを購入するのは
良いが、解約の手続きが面倒くさい。
わざわざ、わかりにくくしているとしか思えない。
そんな煩わしい手続きはしたくない。
忙しい人は解約が後回しになってしまう。
まあ、月に300円程度なら・・・と。
今の日本のビジネスを支えているのはこんな人たちともいえる。


顧客に衝動買いさせる仕組みがすべて悪いといっているのではない。
ウィンドウショッピングにしても本屋にしても、
買う予定になかったものを買うのは、ある意味人間としての
楽しみのひとつだ。物欲の本能を刺激してくれる。
ストレス発散にしている人も多いだろう。コンビニのレジ脇にある
チロルチョコなどは思わず心が和む衝動買いの誘惑だ。
おはぎが置いてあれば、私は喜んで買ってしまう。
余計な糖分摂取にあとで後悔することも多いが・・・。


このようなことは商売の基本である。別に江戸時代から
本質的には大きく変わっていないだろう。
商売する側の意図が見える訳だから安心感はある。
CS向上を経営課題の中心においていた
20年前ぐらいは、まだまともだったといえる。
自社を選んでもらうためのサービス力向上やブランド強化など
顧客に正直な手を打っていた。ところが今は違う。
ICTを巧みに利用し、顧客の気づかないところで商売をする。
最大の原因はマーケットのシュリンクで企業に余裕がないことにある。
そして、さまざまなノルマに追われて、顧客の見えないところで
囲い込みを行い、余計なものを買わせることに必死だ。
利益至上主義の行き過ぎとはこのことであろう。
ICT利用による商売の巧妙化ともいえる。
コンビニのレジ脇のおはぎとは訳が違う。


商売が成熟していない経済の成長期は、ある程度のものや
サービスを提供すれば、顧客はいくらでも増える。
日本の戦後がそうであったように今のベトナムやアジア各国は
売る側が偉い、つまり「売り様」の国が多い。
お客様を意識するのはもう少し先だろう。だが、私は思う。
今の日本こそ、「売り様」の国へと変貌してきているのではないか。
しかも、顧客を巧みに騙すという意味でいえば、
悪質な「売り様」ではないか。


良いものをつくり、喜ばれ、美味しいものを提供している
レストランにファンができる。
こういう時が一番、商売の原点が学べるはずだ。
今の日本は望んでいない顧客にいかに物を買わせるか、
サービスを申し込ませるかに腐心しすぎているように思える。
残念ながら、つまらない国になりつつある。
それが仕事の技や企業のノウハウというならば、
そんなものは今の日本国内だけでしか通用しない。
世界各国での商売には何の役にも立たないと思う。


商売の原点をもう一度考えてみたい。
それは、今は売り様の国であるアジアや発展途上国で
感じることができるはずだ。
すでに日本が忘れてしまった何かが見つかるかもしれない。

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(近藤 昇 著 2016年10月15日発刊
もし、自分の会社の社長がAIだったら?
PartⅠ 社会への提言-【提言2】顧客に正直な商売はどこへいったのか? より転載)