ICTビジネスの世界に身を置いて30年が経つ。
特にこの20年は、さまざまな企業のICT活用支援をしてきた。
これからの時代では、本当の意味でICTの恩恵に預かって、
ICTのおかげで「良かった、助かった」と思えるような
働く場を創造していきたい。
ここで、10年後のオフィス環境を予測してみたい。
私自身もきっと現役でビジネスをしていると思う。
わずか10年先だが、この10年はとてつもなく長い期間になるだろう。
すでに本書でも述べてきたが、この30年を10年単位で俯瞰すると、
加速度的にICT活用環境が変わっていることに気づく。
最初の10年はPCの登場に代表されるが、ITが個人としても
使われだした時代だ。次の10年は、インターネットが普及した時代。
通信の機能が加わりITがICTと呼ばれるようになった時代だ。
そして現在の10年は、社会システムとICTの融合が進む
時代といえる。だからこそ、これからの10年の役割が大きい。
ICTが真の意味で人々のあらゆる生活シーンに融合していく期間ともいえる。
ただ、冷静に日本人の働く環境や働き方を考えるととても残念な気持ちになる。
それは、一向に緩和の傾向が見られない出退勤時の通勤ラッシュだ。
都心部でのビジネスパーソンのせわしない姿。ストレスも溜まるだろう。
世界の中でも労働生産性の低い国としてレッテルを貼られて
はや何年経つのか。日本は先進国の中でも高度な技術を有し、
ICTも社会インフラ、社会システムに融合されつつある時代を
迎えている。家庭ではロボットが勝手に掃除をする時代だ。
自動販売機や駅の改札はスマートフォンひとつで決済できる時代でもある。
ECサイトで商品を買えば、家に指定時間に届く。
本当に便利な時代になっている。しかし、働く人間側の環境は
20?30年前とさほど変わっていない。何もかもが便利になる時代に、
会社で働く人間だけが取り残されていると残念な気持ちになる。
今は、ICTのメリットをビジネスパーソンが享受するべき
時代であるのは間違いない。テレビ会議システム、クラウドなど、
実現できる環境は用意されている。あとは、企業側の問題だ。
つまり、経営者の決断次第である。これから本格的な
ICT活用時代が到来する。私がもっとも提唱したいことは
これからのオフィス環境と会社のあり方についてだ。
「オフィス内ワーク中心」から「オフィス外ワーク中心」に
会社のあり方を変えるべき時代がきている。
政府も、2013年年6月には、「世界最先端IT国家創造宣言」が
閣議決定され、「テレワーク導入企業数3倍(2012年度比)」
「雇用型在宅型テレワーカー数10%以上」などの目標を掲げている。
ICT活用の視点で考えれば、本社、支店などの物理的オフィス中心
から仕事環境を構築するのではなく、ICTプラットフォームを起点に、
仕事環境を構築することだ。バーチャルという意味ではない。
このプラットフォームは会社ごとに作れるはずだ。
このことは、広がる都市部と地方の格差の解消にも役立つ。
とにかく、都市部に行く必要はない。地方で勤務すればよい。
当社は、海外でビジネス活動を長年行ってきたことは
何度も本書でも述べてきた。東京、大阪、ホーチミン、ハノイに
それなりの大きさのオフィスは構えている。この家賃コストだけでも
結構な額に達する。とはいえ、海外も含めた多拠点でも日常の仕事は
特段支障がないのが現実だ。お客様への対応もこのワークスタイル
だからといって迷惑をかけることもない。
特に海外が絡むと理解がはやい。創業時から、在宅勤務も普通に行ってきた。
オフィス外かつ在宅外勤務も随時行っている。
ホテルからでも会議は普通にしている。
そこで重要になるのが社員教育だ。いきなりオフィス外ワークに
移行しなさいと業務指示をされても、何をどうすればよいのか
わからないことだろう。オフィス外ワークをする上で、
重要なポイントはすでに説明してきた。
こういったことをあらかじめ社員教育する必要がある。
しかし、社員数が多ければ、あるいは拠点数が多ければ、
社員研修をしようにも、研修場所の問題やコストの問題、
多くの社員が一同に研修すると業務が滞るなどの
現実的な課題が突きつけられる。こういったケースで勧めたいのが
オンライン研修とe ラーニングだ。
当社としては、今後ICTを活用したオフィス外ワークへの
支援や企業研修への取り組みに力を入れていきたい。
ICTプラットフォーム型のオフィス環境をみずからが実践し、
ブラッシュアップしつつ、企業にご提案していこうと考えている。
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(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
『ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する』
第8章 中小のアナログ力が際立つ時代の到来-10年後のオフィス環境と必要な仕事スキル より転載)