日本が車社会であることはいまさら言うまでもない。
交通事故による死亡事故は、年々減少しているが、
それは道路環境や道路交通法の整備、救急医療技術の進歩、
自動車の安全性についての技術向上などが要因である。
内閣府は、2011年に第9次交通安全基本計画を策定した、
そこには、交通安全対策として、ICTの活用を進めることが
記されている。情報通信技術の活用は人間のミスによる被害の防止などに
大きく貢献することが期待できることから、高度道路交通システム
(ITS(Intelligent Transport Systems))の活用などを
積極的に進めると示されているのだ。
ITSとは、情報技術を用いて人と車両と道路を結び、
交通事故や渋滞などの道路交通問題の解決をはかる
新しい交通システムのことだ。日本では1996年7月に策定された
「ITS推進に関する全体構想」により、政府レベルで推し進められている。
カーナビやETC、信号制御、道路防災などの道路交通管理における
日本のITSは、成功事例として世界にも誇れるレベルにある。
その一例がカーナビである。自動車を運転するときに
普段なにげなく使用しているカーナビだが、
これは人工衛星などを使って、自動車の現在位置を認識している。
それに地図情報や渋滞情報を判断し、目的地までの最適な道順を
ナビゲートしてくれる。実に壮大なICTであるが、
当たり前すぎて、その壮大さが理解されていないのは残念だ。
ETCについても同様だ。ETC車載器を設置した車両が、
料金所のETCレーンに進入すると、車載器と料金所の路側機間で
料金決済に必要な情報が無線通信されている。
こんなシステムを当たり前に利用しているのだ。
私が、頻繁に訪れる東南アジアの国々では
「自転車→二輪車(バイク)→自動車」という発展の道筋を
間違いなくたどっている。18年前に拠点を構えたベトナムは
バイク社会だった。今でもバイクのことを「ホンダ」と呼ぶほど、
日本のバイクがベトナム国民に浸透している。
街の道路はバイクであふれかえっている。
それが、高度成長期に入り自動車がずいぶん増えてきた。
こういった国々に日本のITS技術を輸出すると、
その国の交通安全対策に貢献できると確信している。
これらの技術で現在もっとも注目されているのが、
自動車の自動走行システムである。
世界中の国が国家レベルで自動車の自動走行システムの開発、
研究に取り組んでいる。無線通信で、自動車間や障害物との距離を測り、
走行レーンを自動で変更したりする技術だ。
交通事故のない社会を目指すことは世界共通のテーマであり、
そこにICTが深く関与しているのは間違いない。
ただ、自動走行システムになったとして……
現在クルマ社会で大きな問題になっている高齢者事故が減少するのか。
そもそも高齢者ドライバーが目的地までの設定をきちんとできるだろうか。
スマートフォンをいじれるくらいならば問題なく操作できるのか。
色々と心配になる。
また、自動走行システムは、コスト的な問題で全国津々浦々まで
浸透することは難しいかもしれない。そうだとすれば、
都市部を中心に展開することが想定され、地方の高齢者の
交通事故リスクは軽減されないということになる。
このあたりも気になるところだ。
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(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
『ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する』
第7章 水牛とスマートフォンを知る-交通安全にICTは期待できるか より転載)