「クラウドで業務をアウトソーシングしましょう」
端的にいえば、クラウドソーシング(これまでに説明してきた
クラウド(cloud)とは違い、クラウド(crowd)のこと)は
こういう意味だと解釈している。
最近では、この分野のベンチャー企業がIPO(株式上場)
するなどして注目を浴びている。
当社が創業した約20年前、SOHOという言葉が流行した。
私も、このスタイルが気に入って、
実際、SOHOスタイルで起業し、ビジネスをはじめた。
パソコン通信で、お互いが連絡を取りあう。
IT関連の仕事と、子供服のリサイクルのビジネス
「おさがりの会」をスタートしたので、スタッフは在宅であったり、
お客様先訪問など自由気ままに活動していたのだ。
今考えても、そのとき、なんら不便は感じなかった。
ずいぶんと先進的なワークスタイルでもあり、結構気に入っていた。
今にしてみれば、オンラインで顔を見て話ができるSkype(スカイプ)
のようなものがあれば、相当な勢いで米国発のSOHOも
日本にも広がったのではないかと思う。
その頃、同時にはじめたのが、在宅ネットワークを活用して
仕事を依頼するしくみづくりだ。
今でも商標を保有している「CAMS(キャムズ)」という
働くお母さんの組織化をはじめたのだ。
「CAMS」はキャリアマザーズの略である。
これらの活動は、震災の影響もあり、休止をせざるを得なかった。
震災がもしなければ、今頃どうなっていたか……
そんなことを今でもときどき考える。
あれから、パートタイムのお母さんや在宅の労働力を
活用するしくみが日本にも次から次へと生まれ、
その時代の変遷とともに変化と進化を繰り返している。
そういう進化の過程で、今をときめくクラウドソーシングの価値は
何なのかを考えてみたい。
さまざまな企業が多様な外部委託のしくみを利用して、
ダイナミックな業務遂行であったり、コスト削減を実現しようとする。
企業側にはメリットがあるだろう。
しかし一方で、仕事を受ける側からいえば、多くの制約があり、
希望どおりに働けない人たちも数多く存在する。
日本では家庭を持つ女性のビジネスにおける活躍が期待されている。
少子高齢化が進む中、国も女性活躍の啓蒙としくみづくりに躍起だ。
補助金もいくつか登場して、雇用する企業側の
バックアップ体制も整備されてきた。
うがった見方をすれば、将来の選挙対策向けの政策
と思えるものも増えている。
そのような潮流の中、メディアがクラウドソーシングばかりを
取りあげるのは少し短絡的すぎないかと思う。
ひとつこの事例で考えてみてもらいたい。
ここ10年でIT業界を筆頭に、さまざまな業務がアジアに
アウトソーシングされてきた。
ソフト開発のオフショアは代表的だが、
他にもCAD(コンピュータによる設計支援)の図面作成、
ウェブ制作、コールセンターの海外移転など大手企業は
特にアジアへのアウトソーシングに力を入れている。
経理業務を中国の大連にあるセンターに丸ごと委託するケースもある。
いうまでもなく、アウトソーシングのその最大の狙いはコスト削減である。
労働力不足に頭を抱える日本のビジネスの現場では、
新たな労働市場の開拓に躍起である。
シニア、主婦、地方はネットを使い、仕事が潤沢にまわりそうな
雰囲気はある。しかし、経営者の考えが変わらない限り、
国内のクラウド(crowd)を使った「アウトソーシング」は
海外にアウトソーシングすることとなんら変わらない。
2050年ごろの日本の労働環境を考えた場合、
首都圏一極集中は是正されるべきである。
地方を衰退させたまま、首都圏が活性化できるはずがない。
オフィスの首都圏集中も解消されるだろう。
首都圏と地方の情報格差も埋まるはずだ。
私は、ネットが進化してますます便利に使えるようになりつつある
今だからこそ、新たなる勤務形態の構築に主眼を置くべきと考えている。
企業単位で、日本の地方、在宅、海外を問わず働けるしくみづくり、
あわせて人事制度の改革、社員教育のやり方、すべてまとめて
改革していくことで、本当のSOHOワーカーが
主役の時代が来るのではないかと思う。
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(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
『ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する』
第3章 パソコンもオフィスも不要な時代-クラウドソーシングの先にあるもの より転載)