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日本の今のソフトウェアは新興国に売れるのか?

『日本の技術やノウハウを新興国に提供する』タイを筆頭に製造業の海外進出がアジアに向けて始まった
約40年ほど前から、このテーマは常に議論が繰り返されてきた。
単純に考えれば、有料で相手国の企業に提供すればよい。
しかし、技術やノウハウは、さまざまな方法で意図せず
流出するというリスクがついてまわる。
20年ほど前は、製造業の空洞化が日本の産業の根幹を
揺るがすとして、とても批判的な意見が多かったように記憶している。
海外に技術やノウハウが出ていくということは「流出」と捉える人々が多い。
日本人はネガティブに考えやすいからだ。
しかも、日本よりも機密保持、知的財産権の保護の仕組みが脆弱な
中国などへの展開はリスクだらけだとの認識が強まった。
しかし、時代は変わっている。
すでに隣国の韓国はいうまでもなく、中国やタイなどでは製造業が
根付き、世界の中心的プレーヤーを輩出するまでに成長している。
日本のお家芸であった家電などはすでに日本企業の敗北は明白である。
もはやこうなると、技術の流出云々などの議論自体が滑稽である。先進国の技術やノウハウを基にした新興国でのイノベーションは
常なる必然である。
日本もかつてはそうだった。
マクロ的に見れば、後発の国が先進国にいつかは追いつくのである。
しかも、これからのポテンシャルの高い市場が新興国にはある。
競争力がある新商品が生まれるのは自然の成り行きだ。
かつての日本も先進国の最先端の技術の模倣から入り、
自国の潜在的マーケットを武器にイノベーションを起こしていった。
技術の流出などという狭い議論の話ではない。
まして、衰退傾向の日本の電機メーカーなどから、リストラされた
優秀な技術者がどんどん、新興国の精鋭部隊としてスカウトされている。
この流れは止まらないのである。

さて、タイトルにもあるが、日本のソフトウェア業界はどうだろうか?
今、日本の第一線のソフトウェアメーカーは、中国や
東南アジアにソフトウェアを商品として販売を始めた。
ICT関連企業の動きを見ていると、ようやく本気モードに
移行しているようだ。
実際に現地の日系企業相手のマーケットはある。
しかし、ローカルマーケットに比べたらその大きさは微々たるものだ。
まして、成長著しい新興国現地の数多くの産業の未来を見据えると、
ソフトウェア産業の未来も他の産業と同様に明るい。
いや、ICT革命が全世界的に進行する中、全産業にかかわるICTが
寄与できるマーケットは無限ともいえる。
ソフトウェアという商品の最大の強みは、複製することによって
いくらでも大量生産できることである。
一方そのことが、かつては不正コピーが横行する新興国では
商売にならないとされてきた。
マイクロソフトが中国に進出した当時の苦難の道はあまりにも有名である。

OSなどの基幹ソフトやワープロなどのアプリはコピーして
使うのにはもってこいである。
では販売管理システムや会計システム、生産管理システムは
どうなのだろうか?
この類は単にコピーしたら使えるという代物ではない。
例えば、日本の会計システムがベトナム現地ではそのまま使えない。
商習慣や業務の仕組みが異なるのだから当然である。
また、それなりのトレーニングや指導も欠かせない。
そもそも、新興国のビジネスレベルは、日本のソフトウェアを
そのままコピーして活用できるような業務の基準に達していない。
自然と、まずはかつての日本が行ってきたような、ソフトウェアを
入れる前に業務改善という段階を踏む。
すでに日系企業が東南アジアの国々で、日本のソフトウェアを
導入するビジネスを始めている。
現地のICT企業と組んで、現地仕様にカスタマイズして
販売する方法が一番オーソドツクスで、今の時点ではこの形態が
成功への近道だと思う。

では、日本のソフトウェアは海外で売れるのであろうか?

化粧品や電化製品、食品などのように爆発的に売れることは
ないだろう。
努力して商売すれば現地の日系企業にはある程度売れるし、
ローカルマーケットでも少しは健闘するだろう。
しかし、ICTの特性を考えると『地産地消』のICTが一番強いのは
言うまでもない。
ソフトウェアやクラウドサービスを構築する技術は、日々
日本との差は縮まっている。
とういうよりも、すでに同レベルと考えた方がよいかもしれない。
開発も、使う側もICTには地域差があまり見られない。
つまり、世界規模で同じようなレベルで広まっていく。
約30年前から始まった中国のICT産業はすでに日本の能力と
遜色ないレベルに到達している。
中国と比べて約10年遅れで推移しているベトナムでも最大手の
FPT社はすでにロボット開発を始めている。
ソフトウェアはどこの国でも創れる時代が到来している。
「アフリカのシリコンバレー」を目指すルワンダもそのようなレベルに
到達するのは遠い将来ではないだろう。

前半で述べた製造業の場合、良い製品を作るためには数多くの
高性能かつ品質の良い部品が必要だ。
技術が流出したとしても、すそ野の部品が調達できなければ
良い製品は作れない。
2020年の工業化立国を目指すベトナムが苦戦しているのは
すそ野産業が未整備のままだからだ。
このままではタイに追いつくことはできないだろう。
しかし、乱暴に言ってしまえば、ソフトウェア開発は優秀な
エンジニアがひとりいれば完成させることはできる。
規模を問わなければ、職人芸の世界である。
しかも、今はフリーソフトが全盛の時代。
基幹のOSに限らず、利用できるソフトの部品はたくさんある。
そして、クラウド時代に突入している。
こんな参入障壁の低い産業は他にないだろう。
このような状況の中で、わざわざ日本で作ったソフトウェアを
海外に売るモデルに将来性があるだろうか?

では、どこにチャンスがあるのか?

それは、日本水準の仕事の仕組みの部分だ。
つまり、経営の仕組みやビジネスモデルを新興国に伝えることが
一番望まれていることである。
そのノウハウが詰め込まれたソフトウェアを展開するというならば
価値は高いだろう。

今、東南アジア各国は日本に学びたいと思っている。
多分リップサービスも含まれるが、現地の経営者から
毎日のように日本の仕組みやモデルを学びたいと切望される。
建設、農業、飲食など業界も多岐に渡る。
それは、カイゼンのノウハウであったり、品質管理の仕組みが
現地に求められている証左でもある。
また、サービスレベルの向上にも現地の経営者の関心は高い。
これからの時代はICTサービスを提供する企業ではなく、
経営の仕組みを持っているユーザー企業が国内外で
活躍できる時代がくると想像する。
常に新興国は混とんとはしているが、イノベーションが連続的に
生まれる土壌がある。
やる気と市場があるのだから当然だ。
日本の仕組みを基にしたソフトウェアの世界でも、現地で
ジュガードイノベーションが生まれやすい時代とも言えるだろう。

ところで、すでに米国発のソフトウェアが日本に数多く入っている。
これと同じようなことが、いずれは新興国で生まれたソフトウェアが
日本にも上陸するだろう。
リバースイノベーションがICTの世界で一番先に起こることも
想像に難くない。
ソフトウェアの特性を考えれば、今はクラウドがベースであれば、
瞬時に拡大することが可能だ。
すでに新興国でいくつかの事例があるが、日本では
せっかく良い仕組みを構想しても、既存の仕組みや規制、
企業間しがらみなどで、普及しないケースがよく見られる。
例えば、医療の仕組みなどは代表例だ。
一方、新興国では何もないところから地域の医療情報の
共有といったことも、行政とも連携しながらスムーズに浸透している。
食に関するフードバリューチェーンの構築にもICTは欠かせないが、
この世界でも新興国で生まれるソフトウェアが強いはずだ。
事例を挙げだしたらきりがないが、すでにICT革命は
新興国でも始まっているのである。

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