• ICT
  • ビジネスナビゲーター
  • ブログ

【提言14】新興国とICTの相性と活用あれこれ


今や日本国内の新聞や雑誌で「AI」や「IoT」に関する記事を
見ない日はない。私自身、偶然にもICTに関わって30年が経つ。
それだからか、どうしてもいまだにこういう類のメディアの喧騒には
懐疑的だ。先進国である日本は、十分便利だし生活も豊かだ。
これ以上、ICTで一体何がしたいのか?
思わず、穿った見方をしてしまう。最近の節操のないメディアの記事は、
ICT産業を近い未来の日本の屋台骨の産業に仕立てあげたい政府の思惑に
踊らされているのか。それともICTサービス会社の片棒を担いでいるのか。
少なくとも、先進国日本では猫も杓子もICTではなく、必要なところは
限られている。私は、ICTの使い方を誤るととんでもない時代が
到来すると危惧している。


例えば、子供の教育環境がそうだ。これからは子供たちをスマホや
SNSから遠ざける大人たちの意志と配慮と仕組みが必要だ。
大都会のコンクリートに囲まれた生活環境でさらにICTに
四六時中触れていては、とても感性豊かで思いやりのある子供が
育つとは思えない。田舎に住んで土で遊び、木の家に住む。
そしてシニアと触れ合う。こんな環境が子供にとって最高なのは
今や誰でも気づいている。


また、顧客の囲い込みのためのICT活用もすでに顧客として
人が望むレベルを超えてしまっている。信頼感や安心感なども合わせた
顧客満足構築の域を出て、今やインターネットや個人情報の扱い
などに関しては、急速に不安感や不信感が広がっている。
実際、重要な個人情報の漏えい事件は後を絶たない。
そして、すでに余計なサービスや勧誘を受けたくない顧客が増えている。
つまり、「そっとしておいてほしい」顧客が増え始めている。
シニアなどはその代表例だろう。一部にはスマホを使いこなして
ECで買い物する人もいるだろうが、多くのシニアは人と触れ合いたいのだ。
人と対面する場で買い物をして、その買ったものを信頼できる誰かが
運んでくれる。そこにまた会話が生まれる。


こんなことを色々と考えた時に日本のような先進国はICTを活用して
より快適さを求める一方で、ICTから遠ざかることで快適さを
実現できる部分を認識すべきだろう。人間はアナログの世界で
生活することが何よりも大切だ。健康で元気でいる最大のポイントである。
これからのICT活用のステージは生活する人々が主役となるだろう。


プログラミングが学校教育に組み込まれるという。
実際、プログラミングの仕事をしてきた私としてははなはだ疑問なのだ。
図画工作や美術などを教えるのとは意味が違う。
大切なのはICTの仕組みを作ることではなく、ひとりの人間として
ICTの仕組みをどのように正しく活用するか、なのである。
これは自動車のメカニズムの勉強を子供に義務化するようなものである。
自動車であれば、運転の仕方はいうまでもなく、マナーや交通安全、
環境対策などを教える方がよほど重要なのである。


さて、本題の新興国でのICT活用はどうだろうか?
新興国と一言でいっても千差万別である。
今回は、アフリカのウガンダと東南アジアのベトナムで考えてみる。
ちなみに、約20年前のベトナムよりも今のウガンダが進んでいると
感じる部分がいくつかある。
ひとつは自動車の普及である。もうひとつはICTの普及だ。
科学技術による進化が地球規模で広がる今の時代、発展途上国に
近いような国であってもすでにICTなどは普及し始めているのである。


ウガンダは農業立国を目指している。気候的にも農業にはうってつけだ。
農業とICTの組み合わせのビジネスが日本国内でも目立つように
なってきた。トレーサビリティや省力化などの部分では先進国でも
ICT活用の余地はある。しかし、日本の根本的な問題は農業従事者の
不足である。このことに気づいていない方々が意外と多い。
一方、ウガンダは労働人口の大半が農業に従事している。
なおかつ農作に適した土地も広大だ。足りないのは農業のノウハウや
商品化の技術である。ナイジェリアは政府主導で携帯電話端末を農家に
配布し、農業に関する情報を配信している。仕組みとしては簡単で、
端末と通信インフラがあれば足りる。また、農家に農業に関する
ノウハウを伝授するのも工夫すればやりようはいくらでもある。
例えば、日本の高性能ゲーム開発の技術があれば、いくらでも
きめ細かいサービスが構築できると思う。


建設現場の技能指導を考えてもICT活用で可能性が広がる。
ベトナムでは今、日本の職人が日本の技をベトナムの職人に
伝授する機会が増えてきた。今のやり方は、アナログ中心で
日本の職人が現場で直接、技を見せて教える。この方法が、
日本の技を伝授するのには一番良いが、日本人の人件費の問題と、
誰が現地に張り付いて根気よく教育するのか、という問題が
常に横たわる。必然的に、一過性の指導に終わり、なかなか、
技は伝承できない。ここでひとつICTの活用を考えてみる。
日本にいる日本のベテラン職人がベトナムの現場にいる
ベトナム人職人をオンラインで指導する。ベトナム人職人は
スマートグラスをかけて実際の手で作業を行う。
日本のベテランは、ベトナム人職人の目線でその手元を
モニターで見ながら指導する。この仕組みの応用範囲は建設現場に
限らずいくらでも考えられる。


今、ベトナムではタクシーの配車アプリサービスの「グラブカー」が
普及し始めている。(※2016年発刊当時)
ベトナムではタクシーに乗る際に不便だからこのようなサービスが流行する。
仕組みはシンプルで、タクシーをスマホなどで予約するサービスである。
この分野では、米国の「ウーバー」が先駆者的存在であり、
最近では自動車産業の未来を左右するような話題も聞かれる。


ひとつはトヨタが出資するというニュースが流れた。
ベトナムで過ごしていると何が困るかというと雨季に必ずといって
よいほど発生するスコールの時にタクシーがつかまりにくいことである。
そもそも、ベトナムのような新興国に慣れていなければ、
言葉も通じるかどうかわからない。
高額な料金をふっかけられるかもしれない。当然、とても不安になる。
実際、少なからずトラブルも起こっている。そこでシンガポールに
本社を置く「グラブカー」がベトナムで急速に普及している。
ベトナム人社員に聞いてみると、確かに便利だという。
ようやくカーナビも普及し始めた程度のベトナムは日本のように
車社会は快適ではない。ベトナム人の中には自動車を購入して
「グラブカー」に登録し、即席タクシーとして月に1000ドル以上
稼ぐ人たちも増えているという。つまり、タクシー会社ではない
民間のいわば白タクを「グラブカー」で予約して利用しているのだ。


ウガンダでは日本のハイエースの中古車が相乗りタクシーとして
ウガンダの交通インフラを支えている。現地の人に聞いたら、
そろそろ地元の起業家が始めるライドシェアサービスが始まりそうだという。
新興国に定着している日本人ならこういう発想は自然と出てくるだろう。
それよりも、現地のウガンダ人がICTによるクラウドの可能性を
知ったら、泉のように知恵が湧き出てくるのは間違いない。


しかし、日本国内のあまりにも便利すぎる社会でこれ以上、
『余計な利便性』を追及している企業人には新興国でのビジネスチャンスは
見えないし、新興国ででワクワクすることもないだろう。
日本の子供たちにプログラミングを学ばせることがすべて無駄だとは
いわないが、子供たちに新興国を体験させる方がよほど将来の
日本のICT産業を磐石なものにすると思えるのだが…。

――――――――――――――――――――――

(近藤 昇 著 2016年10月15日発刊
もし、自分の会社の社長がAIだったら?
PARTⅡ 企業経営への提言-【提言14】新興国とICTの相性と活用あれこれ より転載)