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【提言7】人間らしく住まうスマートハウスの未来とは?


「スマートハウス」と聞くと、皆さんピンと来るだろうか?
ここまで、巷に『スマート』というキーワードが氾濫してくると
さすがに頭の中がチンプンカンプンになると思う。
ハウスなので住宅のことだとイメージできる方もいるだろう。
「スマートハウス」の正体とはなにか? デジタル大辞泉の解説を引用しよう。


〈情報技術を活用して家庭内のエネルギー機器や
 家電などをネットワーク化し、エネルギーの消費を最適に制御した住宅〉


また、「図解と事例でわかるスマートハウス」(翔泳社)には
次のように説明がある。


〈エネルギーを節約する(省エネ)・つくる(創エネ)
 ・ためる(蓄エネ)機能を持った住宅〉

 
簡単に要約すると、第一義には住まいに関するエネルギーを節約すること。
つまり、地球環境にやさしい住宅ということになる。
少し専門的に説明するとHEMS(Home Energy Manegement System)
という住宅の中の電気の管制塔の役割をする装置がエネルギー関連の
機器につながって電気の流れや消費をコントロールする機能を指す。
日本の有力ハウスメーカーはこぞって各社各様のスマートハウスを
すでに販売している。では、今現在、実際にスマートハウスを意識して
住んでいる日本人がどれぐらいいるだろうか?戸建てにしろマンションにしろ、
それなりの住宅に住むことは一般的な日本人にとっては、
人生の大きな目標のひとつである。そして、実際に30年以上は
住み続けるだろうマイホームのエネルギーの効率化はコスト削減
という意味では皆が気になるところではある。しかし、エコカーと同様に、
平均的な日本人が積極的に地球環境を守ることを意識して、
住宅を選択しているかといえば首を傾げたくなる。
日本全体がまだまだ地球資源を無駄に浪費する先進国のひとつである
という事実から考えても、エコ推進派は少数と思われる。
今は、ハウスメーカーなどの商売が先行し、目新しさや差別化要素として、
快適な家づくりのために機能の一部として埋め込まれている。
どちらかというと家を購入する人は特段エコを意識したわけではないが、
スマートハウスに結果的に住んでいるという状況ではないか。


ここまでのスマートハウスの定義に従えば、ICTはあまり
関係がない世界ともいえる。
ハウスメーカーやエネルギー業界などからの次の一手として
始まったスマートハウスの出発点と、今世間でICT関連で大流行の
『スマート』とは随分意味が異なってくる。
しかし現代に生きる私たちは、スマートハウスと聞くと、エコの概念よりも
「ICTと連動した住宅なのだろう」と勝手に思ってしまう。
スマートフォンに始まり、スマートシティ、スマートメーター、
スマートヘルスケア、スマートアグリ、スマートシニアケア、
スマートカー、スマートオフィス、スマート教育……などなど。
これでは、そう思い込んでも無理はない。


そんなスマートというキーワードで勘違いされやすいスマートハウスを
昨今の潮流を鑑み、ICTの観点から考えてみたい。
そのメリットとデメリット、そして人間が本当の意味で快適に
暮らすことができる住まい創りとは何かを追求してみたい。
さらに、それぞれの住まいがつながった新たなコミュニティの創造も
含めて可能性を探りたい。


私自身はICTを活用したスマートハウスには住んではいないが、
強いてスマート的というならば、家でもWifiが普通に
使えることだろうか。余談だが、私は出張先のホテルでも、
やはり習慣としてWifiが使えるかを真っ先に確認する。
海外では特にそうだが、こういう習慣は時として接続がままならないこともあり
ストレスを生みやすい。日本国内でも実情を書くと、以前よりは
地方のホテルでも改善はみられるが、先進国日本としてはWifiの
普及率はまだまだ低い。これが外国人などから大変評判が悪い。


話をスマートハウスに戻そう。現時点で実際に実用化されている
ICT関連のスマートハウスの要素を挙げてみる。


――スマホで外から自宅のペットの様子を見ることができる
――スマホで外から自宅の家電がコントロールできる
――訪問者に対してオートロックを居室から解除できる。
  そして遠隔地からでも制御できる
――どこからでも家の外と中を監視できる(防犯対策としてのセキュリティの範疇)


この他にも、掃除用ロボットもスマートハウスのひとつの要素になるだろう。
ここにいずれAIを搭載すれば、話相手にもなったり、生活の知恵などの
アドバイスも能動的にやり取りできる生活環境が実現するかもしれない。
ところで、外出先から風呂のお湯を沸かすことなどもすでに実用化されているが、
ここまでしなくてもと思うのは私だけだろうか・・・。


いずれにしても、こうやって書き出すと、結局今流行のあらゆるものをつなぐ
「IoT」に絡んだ話になる。ICTに関して常に先進的な米国における
「IoT」の世界でとらえるスマートハウスは、日本よりもビジネス化の
検討が相当進んでいるようだ。シニアが急増する日本は心理的抵抗感から
アナログ的な国として見られているようで、日本では米国的スマートハウスの
普及のハードルは高そうだとの米国の調査もあるようだ。
「IoT」であらゆる外界とつながる可能性のあるマイホームを
想像していただきたい。こんな世界を皆さん歓迎するだろうか?
今は、何やらよくわからないものとつながることによるプライバシーの
侵害などの面が先に気になり、シニアでなくても敬遠したくなる気持ちは
よくわかる。


人間の基本的な生活基盤に欠かせない要素は「衣・食・住」である。
アジアなどと比べて、日本における衣食住の満足度は高い。
ただ、社会生活全体でストレスを常に感じ、特に職場や通勤の時など
さまざまな活動で『疲れる国』であるのは間違いない。
だからこそ、健康産業が活況を呈し、ストレス解消、発散のための
スポーツやグリーンツーリズムなどが求められる。
日本人は、一方では疲れる社会を進化させ、一方ではそれを癒す活動に
一生懸命に努力する。世界から見ると、とても不思議な国民だろう。
このマッチポンプはどう考えても不自然なのである。
 人間が生活する中で一番多くの時間を過ごす場所はどこかと考えると、
それは職場か家になる。今の日本の職場はストレスが溜まる場所である。
今後のICT社会の進展を考えると、ここしばらくはそれは
エスカレートするだろう。すでに述べたが、ICT社会の浸透は
癒しと安らぎを与えてくれる家の中まで波及してくる。
少なくとも、身近な生活の周辺にはICTがとんどん浸透し始めている。
だからこそ、これからの家に求められるのは、そんなICT社会の
ストレスから開放された空間であるべきなのではないか。


実際に建築ビジネスにかかわるひとりとしても提唱したいことがある。
それは、生活する人間が家にいてもほとんどICTを意識しない
自然の住まい創りを実現していくことだ。壁の中や床の下など見えない所では、
ICTはふんだんに使われていてよい。しかし、住んでいる人間は
それをまったく意識しない。スイッチなどは存在しない方がよい。
人間の音声だけでON・OFFが操作できる。
そんな住まいをデザインして世の中に広めていきたい。
そして、今の日本社会や海外のさまざまな課題を解決する
住まい創りを目指したい。


ところで、私自身、ICTをまったく意識することのない家の
ポイントは部屋と壁の活用だと思っている。
今の日本の課題に照らして考えてみよう。
在宅勤務が進みそうだが、在宅勤務をする場所の確保は
これからの大きな課題となるだろう。そもそも、職場が本来は
リラックスできる自宅と融合するわけである。
したがって、気分的な切り替えができなくてかえってストレスが
増幅するのではないかと危惧される。また、従来の住宅は、
仕事をするのに最適な設計にはなっていない。
大抵の場合、すでにあるどこかの部屋の机にパソコンを置くだけだ。
今後は、人が生活する空間内に、特別に働く部屋を別に作る
というデザインや機能設計が必要になってくるだろう。
建築士もICTや職場環境のあり方を勉強しなくてはならない時代
なのである。

 
シニアや障がい者の住まいも進化が期待できる。
シニアのひとり暮らしというと、見守りの部分でスマート化は
すでに進行している。先に説明したHEMSは電気メーターから
シニアが無事に生活しているかの判断をしたり、いざという時の
通報などさまざまな工夫が凝らされている。
これはICTの有益な使い方のひとつだろう。
ここにAIカメラ搭載ロボットを活用する研究も盛んに行われている。
これも実用化は近いだろう。ひとり暮らしでも安心安全に、
そして豊かな生活を送るため、ICTを存分に活用して必要な人と
コミュニケーションが自由自在にできる時代はそう遠くない。
また、在宅医療、看護にしても、法律の改定が進みつつあるが、
医者がオンラインでいつでも診断できるというサービスも実現して欲しい。


また、海外進出が増えてくると単身赴任者も多くなる。
家族との団らんの場の居間をオンラインでつなぎ、共有することも可能だ。
しかし、パソコンなどでつなぐといかにも機械的。
少なくとも普通の住宅の自然の壁に相手方の部屋がつながって
見えるとどうだろうか? いわばスクリーン埋め込み型の壁で
空間を共有する感覚がとても理想的だ。
パソコンに映った画面ではしっくりこない。これはさまざまな
場面でも応用可能だ。シニアに限らずひとり暮らしであっても、
気の合う仲間同士が空間を共有できる。
田舎のシニアが都会の孫の部屋と空間を共有できるだろう。
生活に有益な情報を自然な形で伝えることもできる。


スマートハウスは先進国だけとは限らない。アジアなどの
低所得者層の住まいにもスマートハウス化は十分考えられる。
タイムリーに生活情報を提供するだけでも現地の行政などの
メリットは多い。


私が将来理想とするスマートハウスはこんな光景をイメージしている。


〈田舎で自然に囲まれた木造住宅でパソコンのキーボードなどを
 触ることもなければ、スマホもいじらない。必要に応じて
 仕事がしたければ、仕事部屋に入っておもむろに空間に話しかける。
 そうすると壁に呼び出した相手が登場する。家にはすでにAIが
 搭載されていて、さまざまな生活データから健康管理のケアも
 してくれる。1週間の食事の履歴からバランスも考え、
 食事の献立も考えてくれる。目覚まし時計で苦労して
 起きている人にとっては、寝ている間に温度調整など巧みに行い、
 自然に目覚める生活環境を創りだす〉


こんなことも夢物語ではなく、実現可能だと思っている。


人間がより快適によりリラックスできる空間創りこそが大切である。
つまり人間主体で考えていけば、進化し続けるICTが使える部分は
無限にあるかもしれない。無理にICTを意識せず、
人間らしい生活を実現できる。
これこそ、真のICT連動スマートハウスの理想形である。
人生で一番時間を過ごす場所だけに、本当の意味での
スマートな住まい創りの可能性を考えると、楽しくて仕方ない。

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(近藤 昇 著 2016年10月15日発刊
もし、自分の会社の社長がAIだったら?
PartⅠ 社会への提言-【提言7】人間らしく住まうスマートハウスの未来とは? より転載)