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【提言6】個人情報は誰のもの?


約30年前、私が20代の頃はインターネットもなければ、携帯電話もなかった。
この時代では、スマホやパソコンで買い物して、クレジットカードで決済
なんてことですら、夢のような世界である。日本のように技術やICTが
日進月歩な先進国で生活していると、知らない間にとんでもない巧妙な
仕掛けや仕組みの中で生活していることに気づく。
だが、専門家でない限りなかなかわからない。商売における個人情報の扱いも
そのひとつだろう。
私たちが日常生活する中できっとこんな疑念を感じているだろう。


「どこかで自分の個人情報は漏れているのでは?」
「勝手に使われているのでは?」


うすうす人々が感じ始めたのはいつの頃からだろうか。
実はICT活用以前の時代、30年ほど前でも実感できることが多々あった。
私も20代で子供ができたとき経験した。子どもの誕生と同時に、タイムリーに
赤ちゃん用品の会社からDMが届いたことを今でも鮮明に覚えている。
七五三の年になるとまたまたタイムリーにDMが届く。めったにない
葬式の直後でもしっかり届く。なるほど、社会の巧妙な仕組みをうすうす
実感していたものだ。葬式の日に仏壇屋が営業に来るなんてのはよく聞く話。
病院が怪しいよね…そんな話をよくしていたものだ。DMの専門家や
商売する側でなければ、一般の人はなんとなく皆そうだからと
流してしまうだろう。心なしか不安ではあったが、皆がそれほど気にも
留めていなかった時代があった。


私はICTの仕事に30年近くかかわってきているので、今では情報の
扱いに関してもそういう意味では専門家である。だから、身内や周りの人に
よく聞かれることがある。質問はインターネットにおける個人情報に
関することが一番多い。インターネットに不慣れな人達がスマホやパソコンを
使ってECで買い物をする。最初の不安は自分の住所やプロフィールを
画面に打ち込むことだ。会員登録してパスワードというパターンも多い。


「大丈夫なのか? 悪用されていない?」


そして、決済でクレジットカードの情報を入れるとなると不安がピークに達する。


「勝手に引き出しされない? 本当に大丈夫?」


私の場合、結構平気で利用している。
しかし、絶対に安全だと確証があるわけではない。
専門的な仕組みやリスクもわかっている。そして犯罪は世の中に常に
あるものということを理解もしている。だから、質問されたときも
「たぶん大丈夫」と答える。そして、そういうセキュリティよりも
もっと大事なことを教えることにしている。
それは、商売する側の個人情報の扱い方についてだ。


個人情報は漏れる可能性があることを前提に利用すると良いと話する。
漏れるというのは、すべてが犯罪と言いたい訳ではない。合法的な流用など
いくらでも巧妙な仕掛けがインターネットにはあちこちではびこっている。
余計なお世話かもしれないが、商売する側の魂胆を懇切丁寧にアドバイス
していると言い換えてもよい。その結果、そんな危なっかしいもの絶対に
使わないとの結論に至る人もいる。


私のアドバイスのよりどころのひとつは単純だ。専門家だからということも
あるが、今まで自分が直接的な被害に遭ったことがないからである。
そして、本当に危なそうなところは利用しない。随分前から外国にいても、
結構クレジットカード決済で買い物したり、注文したりしてきたし、
インターネットで個人情報を打ち込む頻度はとても多い方だと思う。
だから、私は平均的な人よりは、感覚的に慣れすぎているともいえる。
そう考えると、ICTに疎い人(世の中の大半がそうだと思うが)の心配や
不安に思う感覚が実はまともなのかもしれない。


「個人情報は自分のものなのにどうして勝手に使われるの?」
「誰がそんなこと仕組んでいるの?」


こういう感覚なんだろうと思う。


大手通販会社や教育会社、あるいはクレジットカード会社の情報が
漏洩した話は、メディアが今でもセンセーショナルに伝える。
専門家ではなくても、一般の方々にも嫌が応にも伝播する。
そして、そんな事件や事故が続くと、漏れていない情報はもはやないのではと
勘ぐったりもする。不安がいっぱいの今の時代、一番漏れたくない情報の
ひとつはパスワードだろう。パスワードが見破られるとあらゆる個人情報が
世界中に広まるリスクがある。米国有名女優の画像が流出した事件などは
生々しいし、深刻だ。パスワードの使い方の指南はいくつもあるが、
数が多くなると定期的に変更するのはとてもストレス。
結局、せいぜい2つか3つということになる。指紋認証などさまざまな
仕組みが進化しつつあるが、私は技術の進化の過渡期にある今が一番、
利用者にとってストレスがたまる時代なのだと思っている。
もう少し先の進化に期待したいと思う。


改めて、個人情報がなぜ洩れるかを考えてみる。単純に、それを使いたい
企業や人がいるからだ。一般的には、企業ならば顧客にしたいからである。
個人情報は企業からすれば、とても重要な顧客情報なのである。
これも挙げだしたらきりがないが、顧客情報の取得方法は昔から巧みだ。
わかりやすいところでいえば、アンケートだろう。昔は紙、この時はまだ
わかりやすかった。今はインターネット上のアンケートも多い。
思わず余計なことに返答してしまう。仕組み的には相手の思惑で
アンケート中に質問も増やせる。昔から学校の名簿や個人情報のリストは
皆欲しがる。今やSNSを筆頭にいたるところでこれに近い情報は
入手が可能だ。そして、個人情報は犯罪にも使われる可能性も常にある。
結局は企業は商売のための顧客情報の取得が生命線なのだ。
経営として考えれば、当たり前のことであり、新規顧客獲得のコストも
相応に必要だ。だから、結果が確実に出やすい方法にはしる。
常識の範囲で行う限りは、企業の思惑は昔とあまり変わっていないともいえる。


だが、ここ最近のICT革命の急激な進展に隠れて、とんでもないことが
進行している。誰でもがよく使うインターネットのプラットフォームを
提供する巨大企業は世界中の情報を一元的に獲得・蓄積しつつある。
少なくとも、先進国のメジャーな企業が保有する個人情報などを
すべて統合したら、例えば、日本国民の全情報は掌握できるだろう。
ただ、幸か不幸か、企業は自分の会社だけが把握する情報は他社と
共有したり、開示することはほぼない。自社の儲けのための
経営資産だから当然である。


こんなシーンから考えてみよう。仮に朝起きて、スマホを使って、
電車に乗って、どこかの百貨店で買い物する。夜は、彼氏とデートで食事。
こんなシーンに関係する企業が情報連携すると、この彼女個人の日常生活の
すべてが丸裸になるというとんでもない世界が実現する。
それに加えて、日本中いたるところで防犯カメラ(監視カメラともいえる)
が設置されている。これからは、映像もとても重要な個人情報になる時代だ。
例えば、AIを組み込んで、画像の判定を人間が行うのと近いように
精密に自動的にできるようになると、心配は尽きることがない。
とんでもないことはすでに実現可能なのだが、今は、テクノロジーの壁
ではなく、企業間の競争の原理で歯止めがかかっているといえる。


もちろん、日本には個人情報保護法があり、コンプライアンスの観点でも
CSRの観点でも企業は顧客の情報の扱いには責任を持たないといけない。
それに加えて、顧客満足度中心の経営を掲げる企業は多い。
しかし、実態は違う。個人情報を巧みに、コストを抑えて取得して、
効率的に使い、いかに儲けるかが優先される。マーケットが縮小する
日本では、企業の精鋭部隊はこれしか考えていないといっても
過言ではない。インバウンドが急成長中だが、ここに対しても
同じ発想であり、最近では政府が入国する外国人の情報データベースの
構築にまで言及している。その結果、一体、誰がその情報の責任を取るのか? 
そのうち、個人情報が勝手に使われている恐ろしい国が「日本」ということに
なりはしないか? 信用第一の日本にとっては深刻な問題でもある。


日本でも、そろそろ個人情報は個人が主体的、能動的に活用する時代に
なるだろう。これからは、銀行にお金を預けるように、第三者的な企業
として個人情報バンクなるものができ、それを本人のみが、
使って欲しい企業に能動的に提供する。そして、それを個人情報の
所有者本人が消したいときは企業は必ず消さないといけない。


『個人情報は自分のもの』


このような仕組みやサービスがそろそろ日本でも生まれてくるのではと思う。

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(近藤 昇 著 2016年10月15日発刊
もし、自分の会社の社長がAIだったら?
PartⅠ 社会への提言-【提言6】個人情報は誰のもの? より転載)