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【第7章】まちづくりとICTは一体化してきた


スマートシティという言葉が近年、よくメディアに登場するようになった。
環境に配慮し、持続可能な都市づくりのコンセプトとして広く普及した感がある。
再生可能エネルギーを利用したスマートグリッド、新交通システムなどを
組み込んだ街づくりが日本でも始まっている。
そして、ミクロな観点でいえば、スマートホームも普及の兆しを見せている。
電子ロックや快適性を保つための自動化機能が売りだ。


この新しい都市を支えるのが、ICTであることは多くの方々は
あまり知ることのない事実であろう。
エネルギーの効率的な使用を制御したり、交通システムの管理なども
ICTが縁の下の力持ちの役割を果たしていく。
もちろん、そのような最先端の都市にICTの制御はよく似合う。
前出のような環境に配慮した、スマートな都市での生活が
目に浮かぶだろう。しかし、なにか危ういものを感じる。
それが否めないのだ。


例えば、2014年に自動ブレーキシステム事故が埼玉県で発生している。
試乗会という場であったため大惨事には至らなかったが、
この自動ブレーキシステムはスマートシティの交通システムの
一翼を担うものだ。前方の障害物をセンサーで感知し、自動でブレーキを
作動させる。もちろん、近未来には障害物自体にもセンサーが埋め込まれ、
自動車と相互通信が実現し、事故を最小限に食い止めるシステムへと
進化を遂げるだろう。そんな中、まだ実証実験段階とはいえ、
このような事故が起こりえるという現実を把握しておかなくてはならない。


また、都市においてICTの果たす役割として、防犯に大きな効果が
期待されている。街中に防犯カメラを設置し、犯罪抑止と犯罪の
短期解決をはかる。すでにイギリスなどでは、防犯カメラが
街中のあらゆる場所に設置され、緊急時にカメラのとらえた映像解析を
迅速に実施する体制が整備されている。
しかし、同じことを日本で実現しようと思えば、プライバシー情報と
犯罪抑止の狭間で大きな議論を招くかもしれない。


スマートシティはICTが管理する情報こそが生命線になる。
そのときの情報セキュリティ管理の体制はどうなるのか?
社会インフラをICTが制御する時代となれば、個人情報が
悪用されることはまだ可愛く映る。
なぜなら、社会インフラそのものが攻撃を受け、都市機能が
麻痺する事態も想定されるからだ。


心配事ばかり並べても仕方がないかもしれないが、
スマートシティのメリットばかりを主張する記事が目立つ中、
ICTが支える街づくりのリスクもしっかり国民に伝えるべきだろう。
そうすれば、国民も気づくはずだ。ICTが全能でないことを。
つまり、人間が長年培ってきたアナログの力とICTを
融合させる動きを見せるはずである。


「交差点で自転車が突っ込んでくるかもしれない」


このようなリスク察知力は、永遠に不要とはならない。
ましてや、自動ブレーキシステムにすべてを任せようとは
思わないだろう。街づくりとICTの関係性は、
少し距離を置いた付き合いくらいの方がちょうど良いのかもしれない。


とはいえ、ICTに囲まれた環境は色々と息苦しいことも多い。
私のような田舎育ちの人間は、家くらいは木造の住空間で
体を休めたいものだ。

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(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する
  第7章 水牛とスマートフォンを知る-まちづくりとICTは一体化してきた より転載)