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もしアジア人が自分の上司だったら

先日、シャープがホンハイ(鴻海)の傘下に入ることが決定した
ニュースが駆け巡った。
現時点で100%決定とは言い難いようではあるが、
海外でも注目されているニュースのひとつだ。
私にとっても、やはり衝撃的だし、日本人としては感傷的にもなる。
シャープの不振がメディアを賑わして、すでに数年が経つ。
JALも然りだが、経営環境の激変に企業経営の寿命による宿命が
重なっての苦境だろう。
JALは、国が支援して再生した。
シャープもこのパターンかと、私もなんとなく日本人として
かすかな期待があった。
なぜ、台湾の急成長の企業ではなく、国の再生支援に
少しでも期待していた自分がいるのだろうか?
この数日、時間をかけて考えてみた。
ちょうど海外にいたこともあり、色々と考えてみた。根底にはふたつの理由がある。
ひとつは、やはり世界でも奇跡的とも言われた戦後の
大復興の象徴であり、いまでもアジアから畏怖の念を向けられる
日本の神話の代表選手のシャープである。
特にテレビを世に送り出した第一人者の家電メーカーとして、
一消費者としても愛着がある。
そしてそれがイコール、日本の文化や誇りとも重なるところもある。
もうひとつは、巷のメディアでも頻繁に取り上げていた
技術の流出に対する懸念である。
しかし、こちらの理由に関してはこの1か月ぐらいの私の思考回路に
矛盾があった。
感傷的な部分が大きすぎたのだろう。当社は、中小企業のアジア進出を支援する立場だ。
技術流出の心配をするよりも、信頼できる現地パートナーとの協業で
変革を起こし、ビジネスを創造する時代と常に公言している。
ビジネスの世界でいつまでも競争優位をキープしつづけれる技術は
存在しないと思っている。
最先端技術にも必ず寿命がある。
現に中国や韓国はすでに日本の優れた技術は数多応用、
活用されている。
一部には非合法で流出した部分もなくはないだろうが、
ビジネスのルールにのっとって、売却、移転などが行われ続けている。
日本の秀逸なエンジニアが中国や韓国企業に請われてきたのは
最たる事例だ。
世間で言われているように、仮にシャープの液晶技術が
極秘ノウハウだったとして、同社がこれを頑なに守ることが
再生の道ではないはずだ。時代は激変している。テクノロジーの進化も日々加速する。
シャープの今の問題は、時代の変化に適応できていないことだ。
これからの喫緊の課題は新たなるイノベーションが
連続的に実現できるかだろう。
これが達成できるのであれば、アジアの新興大手企業の傘下
であろうが、日本国籍の企業であろうが、
本質的には関係がない。
まして、企業の機密を保持することはとてもやっかいで困難な時代だ。
同じ企業グループ内で、日本側から台湾側に
機密が流れることになる。
その心配ばかりすること自体がナンセンスだろう。
これからは、ハイホン&シャープ連合で機密保持を
ハイレベルで実現することも、新たなる企業連合の存続にかかわる
重要事になる。

そんなことに思いを巡らせていて、当社のアジアビジネスの
原点を思い出した。
私は10年以上前から、本格的なグローバル化の時代、
特にアジアとのビジネス連携は必然であると提言してきた。
そして、自分の上司がアジア人になる確率が日増しに高まっていると
述べてきた。
だから、アジアの人たちと付き合うための
グローバル対応が必要不可欠だとも。
英語ができる・できないではない。
自分より仕事ができるアジア人が自分の上司になるのは
まったく不思議ではない時代なのである。
シャープの事例で考えてみたら、企業経営の構図上、
全員がホンハイの経営陣の部下になったようなものだ。
今、社員たちはまな板の上の鯉のような心境であろう。
しかし、働くことの本質でいえば、上司が変わろうが、
会社が変わろうが、国が変わろうが
そもそも関係のない世界である。

私はアジアでビジネスを始めた20年近く前から、
いつか日本の新卒の若者が、アジアの現地企業にダイレクトに
就職することが当たり前になると考えてきた。
まだ、劇的に変化はないが、すでに予兆はある。
ベトナムなどでも学生のインターンが増えつつある。
当社はベトナム現地でのインターン受け入れを10年以上前から
率先して実践してきた。
しかし、当社も日系企業だ。
このインターンもいずれは、現地日系企業ではなく現地の企業、
つまり、ベトナムならベトナム国籍のベトナム人が社長の会社で
行うというケースが増えてくるだろう。
そういう動きと併せて、就職活動はアジアでしかも現地企業のみが
企業訪問の対象という就活中の学生に巡りあうことに期待している。

いつも思うことだが、日本人が『内向き志向』と言われて久しい。
「引きこもり」とも言われている。
シャープのような事例はこれからも必然的に増えるだろう。
しかし、このようなパターンは受け身的なグローバル化だ。
時代はとっくに変わったのだから、これからは個人レベルでの
積極的なグローバル化が不可欠だ。
若い人は特に「自分の上司がアジア人だったら」を
当たり前に思える時こそが、本当の意味での
グローバル化の土台ができたと考えてもらいたい。

では、日本人であるアイデンティティはどうなるのか?
次回は日本人の報酬と価値について改めて見つめなおしてみたい。

日本へ帰国の早朝の機上にて

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